「栄養バランスのよい食事を」と言われても困る?
新型コロナウイルスとの闘いも3年になります。。
ワクチン接種のおかげもあってか一時期小康状態になったものの、このところまた新規感染者が増加し、「感染予防のために免疫力を高める食事」の大切さは続いています。
その際に、「栄養バランスのよい食事」とか「バランスのとれた食事」という言葉をよく耳にします。
ただ、「栄養バランスのよい食事」と言われてもあまりに漠然としすぎています。
厚生労働省と農林水産省が作成した「食事バランスガイド*」を活用する方法もありますが、栄養学をきちんと学んだ経験でもないと、そう簡単にできることではありません。
そこで今回は、あまり馴染みのない栄養素で説明するのではなく、食べてもらいたい具体的な食品で「栄養バランスのある食事」を説明したらどうだろうか、との発想から編み出されたとされる「まごたち食」という食事の摂り方を紹介してみたいと思います。
「食事バランスガイドのチェックブック」*¹を使って1日に食べたものを振り返り、足りていない栄養素があれば、その栄養素を補える一皿を加えることにより、1日を通して必要な栄養素のすべてが過不足なく摂れるようになるとされている。
「まごたち食」で「副食(おかず)」の栄養バランスを
「まごたち食」とは、健康を維持、増進していくためには何を食べたらいいのかを、従来のような栄養素ではなく、具体的な食品で示した指針です。
実を言うと私自身、15年ほど前から、この「まごたち食」ということを強く意識して、三度三度の食事づくりをするように心がけています。
当時国立がんセンター研究所で疫学部長を務めておられた渡辺昌(わたなべ しょう)医師を取材した折、がんを未然に防いで健康を維持し、それにより健康長寿につなぐカギとなる「副食」、つまり「おかず」の摂り方として紹介されたのがきっかけでした。
その「まごたち食」の摂り方ですが、ご承知のように、まず食事は「主食」と「副食」に分けられます。
主食は、日々の活動のエネルギー源となる食材です。和食で言えばご飯やおそば、うどんなど、洋食ならパンやパスタ類に加え、じゃがいもやトウモロコシなどが主食となることもあります。
一方の副食(おかず)は、「主菜」と「副菜」の大きく二つに分けられます。
主菜は「血液や筋肉となるたんぱく質を多く含む食材」を、副菜は「体の調子を整えるビタミン・ミネラル・食物繊維を多く含む食材」を指します。
この主菜と副菜、つまりおかずを摂るときに、「まごたちわやさしい」を意識して食材を選ぶようにしよう、というのが「まごたち食」です。
9種類の食材「まごたちわやさしい」で栄養バランスを
「まごたちはやさしい」とは、「豆類(ま)、ごま(ご)、卵(た)、チーズなどの乳製品(ち)、わかめなどの海藻類(わ)、野菜類(や)、魚類(さ)、椎茸などのきのこ類(し)、いも類(い)」の9種類の食材の頭文字を並べたものです。
この9種類の食材を組み合わせておかずにした食事を「まごたち食」と呼んでいるわけです。
1日の食事で、これらの食材をもれなく摂るようにすれば、食材選びで迷うこともなく、必要な栄養素を過不足なく、しかもバランスよく摂ることができます。
1日で9種類全部の食材を摂るのが難しい場合は、2日間で調整してもいいようです。
いずれも最寄りのスーパーなどで簡単に手に入る伝統的な食材ばかり。私たち日本人の体にもなじみやすく、スムーズに栄養源として働いてくれるというわけです。
女性の健康にメリットの多い「ま」の大豆製品
「まごたちわやさしい」という食材について具体的にみてみましょう。
「ま」の豆類としては、大豆製品の豆腐や納豆に始まり、黒豆、えんどう豆などの食材が該当します。いずれの食材も、良質の植物性たんぱく質やビタミン類、食物繊維が豊富に含まれています。
大豆製品については、毎日の食事で多く摂取していると、特に女性では、更年期症状の改善や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防、さらに妊娠中の健康トラブルの予防と、さまざまなメリットのあることが研究により確認されていて、まさに必須の食材です。詳しくはこちらを読んでみてください。
「ご」のごまとしては、黒ごまや白ごまに加え、くるみ、松の実、ナッツ類が該当します。
これらの食材には、悪玉コレステロールの低減や美肌効果が期待できる不飽和脂肪酸やビタミンE、さらにはカルシウム、ミネラル類も豊富に含まれています。
「た」の卵は半熟卵がおススメ
「た」の卵は、食物繊維とビタミンC以外の栄養素をほぼ網羅する完全栄養食品です。
特にたんぱく質は、体内では合成できないために毎日の食事からの補給が必須とされる9種類の必須アミノ酸の全すべてを含む良質のたんぱく質です。
卵についてはコレステロールを気にする方もいるでしょうが、健康であれば1日に2、3個食べても血中コレステロール値への影響はほとんどないことが研究で確認されていますから、安心して摂ることができます。
なお、こちらの記事で詳しく紹介していますが、半熟卵の黄身部分には、発毛や育毛効果が高い「ビオチン」という成分が多く含まれていることから、毛髪にトラブルを抱えている方には、半熟卵をおススメします。
「ち」のチーズに代表される乳製品は、良質な動物性たんぱく質です。加えて、カルシウムやビタミンC以外のビタミン類も多く含まれています。
「わ」に該当するのは、わかめなどの海藻類、昆布、ひじき、もずくなどの食材です。
いずれもミネラルや食物繊維、カルシウムが豊富な食材として知られていますが、特にミネラルの一つである鉄分は、女性にはとりわけ大切な栄養素です。
日本人は男女とも不足しがちな「や」の野菜類
「や」の野菜類は、ご存知のように、ビタミンやミネラル、さらに食物繊維の補給には必須の食材です。
厚生労働省は、糖尿病や肥満、高血圧などの生活習慣病を予防し、健康的な生活を維持していくための食生活の目標値の一つに「野菜を1日350g以上食べる」ことを推奨しています。
ところが、「2018年国民健康・栄養調査」の結果を見ると、1日の野菜摂取量の平均値は、成人男性で約290g、成人女性で約270gと、目標値の350gには足りていないことがわかります。
近年増加傾向にある「現代型栄養失調」の予防には、野菜をしっかり意識して摂る必要がありそうです。
詳しくはこちらを!!
「さ」の魚類は、言わずと知れた動物性たんぱく質の宝庫ですが、カルシウム、さらに鉄分も豊富です。
特に青味の魚には、動脈硬化のリスクを低減させるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)という必須脂肪酸を多く含まれています。
「し」の椎茸に代表されるきのこ類は、食物繊維やビタミン類が豊富で、特にビタミンB群の補給には必須の食材です。低カロリー食品としても多用されています。
糖質を制限しがちな方も「い」のいも類を忘れずに
「い」のいも類は、炭水化物(糖質)が多いことから、ダイエット志向の方は避ける傾向にありますが、腸内環境を整えるうえで必須の食物繊維に加え、ビタミンCが豊富な点が魅力です。
ビタミンCには、熱に弱いという性質があります。ところがじゃがいものビタミンCに限っては、でんぷんに守られているため、加熱しても壊れにくいというのが特徴です。
糖質を制限しすぎると脳がエネルギー不足から集中力の低下や眠くなるなどの悪影響が出るリスクがあります。とりわけブドウ糖はしっかり摂りたいものです。