医療保険の「先進医療特約」は付けるべき?

遺伝子治療保険の話
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保険会社が提案する「先進医療特約」は必要?

このところ仲間内で、保険会社が販売している「医療保険」や「がん保険」に「先進医療特約」を付けた方がいいのかどうかが話題になっています。きっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大でした。「もし自分がコロナに感染したら」とか、「コロナに感染して重症化し、人工呼吸器が必要になったら」などと考えるようになったことが大きく影響していました。

もちろん、新型コロナウイルス感染症の治療費はすべて公費で負担されますから、費用を気にすることなく治療に専念することができます。しかし、「今日の全国の重症者は……」「亡くなられた方は……」と繰り返し報じられると、否応なく我が身の健康について考えさせられ、「病気になったら」「それがかなり深刻な病気だったら」などと心配になるのも無理からぬことです。

こうした流れのなかで「先進医療特約」ということが頭をよぎったりすると話してくれた友人もいます。そこで今回は、この「先進医療特約は必要なのかどうか」を考えてみたいと思います。

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公的医療保険に民間医療保険の併用は必要?

「先進医療特約」の話に入る前に、医療保険のことをざっと復習しておきたいと思います。

私たちの国の医療保険制度は、すべての国民が何らかの公的医療保険、いわゆる「健康保険」に加入し、お互いの医療費を支え合う「国民皆保険制度(こくみんかいほけんせいど)」です。高熱を発するなど、体調に異変を自覚したときは、健康保険証を提示すれば、誰もが健康保険を使って医師の診察を受けることができます。

診察の結果、解熱剤を飲んで自宅で2~3日も安静にしていれば治る風邪だとわかるような状態であれば、医療費は健康保険の範囲内で十分対応することができます。

健康保険の自己負担分が多くなったら

ところが、いくつか検査を受けてみたものの発熱の原因がはっきりせず、しかも日増しに熱が高くなってくるような場合は、入院して輸液などの治療を受けながら、さらに高度な検査を続行する必要が出てきます。こうなってくると、検査や治療の費用がかさみ、健康保険の自己負担分が高くなります。

さらに、そこへ健康保険の適用から外れる入院費や諸々の必要経費も加わってきますから、入院期間が長引けば長引くほどかかる費用もどんどん膨れ上がります。このような場合のために、私たちの国には「高額療養費制度」*が用意されているのですが、この制度がカバーしてくれるのは、医療費に限定されます。

そこで、「最終的に強い味方となってくれたのが、万が一を考えて備えてきた民間の医療保険だった」という経験をされた方も少なくないでしょう。

*高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)とは、医療費が家計に過度の負担を与えないように、医療費支払いの自己負担額を軽くするために、1カ月に支払うことになる自己負担額が上限額を超えた場合に、その超えた額を国が支給する「公費給付」制度のこと。詳しくはこちらをご覧ください。
医療費が一定額を超えたら「高額療養費」の申請を
医療費が高額になり家計に過度の負担を強いることを避けようと「高額療養費制度」が運用されている。自己負担分が一定の額を超えると、そのオーバーした分が払い戻されるという仕組みだ。本人が申請することが前提条件だが、やや複雑なその申請上の注意点をまとめた。

「先進医療特約」の先進医療とはどんな医療なの?

保険会社が販売している民間医療保険に加入する際に、あるいは加入後に、「先進医療特約を付けておくとさらに安心ですよ」などと、保険会社の担当者から加入を提案されることがあります。

しかし、提案を受ける側の多くは「先進医療」とはどのような医療を指すのか、実際のところ日々の臨床において先進医療がどの程度行われているのかは、ほとんどご存知ないだろうと思います。

そこでちょっと調べてみたのですが、厚生労働省の報告によれば、直近のデータでは、2022年度、つまり2021(令和3)年7月1日~2022(令和4)年6月30日の1年間に、全国428の医療施設において2万6556人の患者を対象に83種類の先進医療が行われています

ここで言う「先進医療」とは、高度な医療技術を用いた比較的新しい治療法のうち公的医療保険(いわゆる「健康保険」)の対象になっていないもので、有効性や安全性について一定の基準を満たしていることを厚生労働大臣が認めた医療技術のことです。

将来的には健康保険の対象になる確率が高いものの、現時点では健康保険の適用から外れていますから、治療費は全額自己負担となります。しかし、加入済みの民間の医療保険やがん保険に「先進医療特約」を付けていれば、その保険で賄われますから、自己負担分はかなり低く抑えられるというわけです。

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先進医療の多くはがんの診断・治療のための医療技術

先進医療は、2022(令和4)年4月27日の時点で83種類あり、医療技術ごとに適応症(治療の対象となる病気や症状など)および実施する医療機関が限定されています。

2019年度に実施された先進医療のうち実施件数が上位3位にランクインしている先進医療技術とその適応症、および1件当たりの費用をまとめると、次のようになります*²。

  1. 陽子線治療:年間1196件実施
    適応症:頭頚部腫瘍(脳腫瘍を含む)、肺・縦隔腫瘍、消化管腫瘍、肝胆膵腫瘍、泌尿器腫瘍、乳腺・婦人科腫瘍または転移性腫瘍(いずれも根治的な治療法が可能なものに限る)
    1件当たりの費用:約271万円
  2. MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法:年間1,114件実施
    適応症:前立腺がんが疑われるもの(超音波により病変の確認が困難なものに限る)
    1件当たりの費用:約11万円
  3. 重粒子線治療:年間703件実施
    適応症:肺・縦隔腫瘍、消化管腫瘍、肝胆膵腫瘍、泌尿器腫瘍、乳腺・婦人科腫瘍または転移性腫瘍(いずれも根治的な治療法が可能なものに限る)
    1件当たりの費用:約312万円

上記以外の先進医療技術の適応症(どのような病気で必要になるのか)や技術の概要は、厚生労働省のWebサイト*³で確認してみてください。

年間実施件数が多い上記の3件のように、先進医療技術の多くはがんの診断・治療に用いられる医療技術です。

白内障手術の「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は対象外に

なお、白内障手術において実施件数の多い「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は、2020年4月より厚生労働省の定める選定療養(社会保険に加入している患者が保険適用外の治療を受ける場合、追加費用を負担することで保険適用で受けることができる)の対象となり、手術費用の一部が健康保険の適用となったため、「先進医療技術」から削除されています。

そのため、削除日以降、先進医療費用保険金の支払い対象外となっていますのでご注意ください。

先進医療を受ける確率は低いが特約があれば安心

先進医療技術のなかでも最も多く実施されている「陽子線治療」は年間1196件です。わが国では、推計値で年間約170万を超える人ががんの診断を受けていることから考えれば、仮に自分ががんになったと想定して、この治療を受ける確率はかなり低いことがわかります。

とは言え、仮に自分ががんになり、担当医から陽子線治療を提案された場合を想定し、約271万円という費用のすべてが自己負担になることを考えると、「先進医療特約を付けておいた方が安心」という気にもなってくるのではないでしょうか。

「先進医療特約」は、単独での契約はできない場合が多く、またこの特約を付加できる医療保険やがん保険のオプションを限定している保険会社が多いようです。また、「先進医療特約」は一般的に月額保険料が数百円程度と安いのが魅力です。ただ、たとえば終身医療保険の場合には特約のみが10年毎の更新が必要であるなど、付加条件が保険会社によってまちまちのようです。

万が一のときの備えとして、「先進医療特約」の付加を検討したいときは、保険会社の担当者に直接相談するか、保険代理店の無料相談窓口に相談してみてはいかがでしょうか。あるいは、民間の医療保険に精通しているフィナンシャルプランナーなどの意見も参考にしながら検討してみるのもいいと思います。

なお、急な病気や入院などにより働けなくなり、収入が途絶えたり、大幅な収入減状態に陥ってしまったときに生活費のサポートが受けられる保険については、こちらを参照してみてください。

働けなくなった時に備える「就業不能保険」
新型コロナウイルスの脅威は、「感染して働けなくなり収入が途絶える」不安を抱かせる。2人の子どものシングルマザーである友人から、「就業不能保険に加入すべきか否か」の相談を受け、「働けなくなったとき」の公的保障制度と「就業不能保険」について調べてみた。

参考資料*¹:厚生労働省「令和4年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告

参考資料*²:厚生労働省「令和2年度先進医療技術の実績報告等について

参考資料*³:厚生労働省「先進医療の各技術の概要