酸性体質の人は病気になりやすい?
「アルカリ性体質」とか「酸性体質」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。
現代人は肉類のような動物性たんぱく質や脂っぽいものばかり食べているから、からだが酸性体質になっていて、疲れやすかったり肩こりや頭痛に悩まされたりする。便秘や下痢になったりするのも、からだが酸性に傾いているからだ、といった具合です。
ネット上の極端な例では、酸性体質の人はがんになりやすいといった説までまことしやかに語られています。
いずれの話も、体質はアルカリ性がよく、酸性になると病気になりやすいと信じている方が書いたり語ったりしているようです。
そこで、重曹水を飲んでからだをアルカリ性体質に変えれば、疲れはとれるし元気になれる、などといった話が大量に出回ったりもするわけです。
重曹水は弱アルカリ性ですから、重曹水を飲んで酸性に傾いているからだをアルカリ性体質に変えようということのようですが……。
そもそも体質とは、そう簡単に変えることができるものなのでしょうか。
「重曹水を飲んでアルカリ性体質に変える」の真偽は?
まず「重曹水を飲んでからだをアルカリ性体質に変える」という話ですが、この話に果たして科学的なエビデンス(根拠)があるのかどうか――。
少なくとも私の周りにいる医師たちは、「そんなものを飲むくらいなら、野菜や果物を意識してたくさん食べるようにした方がいい」と口を揃えます。
むしろ重曹水には、薬との飲み合わせが悪いと深刻な副作用を引き起こすリスクがあると言います。
また、胃腸系や腎機能に障害のある方、あるいは心臓や呼吸機能が低下している方の場合は、重曹水を飲むことによって症状が悪化することもあるようです。
いずれにしても重曹の正式名称は「炭酸水素ナトリウム」です。化学式にすると「NaHCO₃」、つまりナトリウムの炭酸水素塩ですから、重曹を飲み続けていると体内でナトリウム、つまり塩分が増えてむくみが出たり血圧が上がったりします。
その意味では、血圧が高めだったり高血圧の診断を受けている方にとっては、重曹水を飲むなどというのはまずもって禁忌です。
高血圧の有無に関係なく、「からだにいいから」といって安易に重曹水を飲むのは控えたほうが身のためということでしょう。
「アルカリ性食品」と「酸性食品」に分ける根拠は?
重曹水とは別の話として、からだが酸性に傾いているときはアルカリ性食品を多めにとるようにするといい、といった話もよく見聞きします。
その流れで、肉類や魚介類、穀類、卵などは酸性食品で、野菜や果物、海藻、きのこ類などはアルカリ性食品と、食品を分類して示し、酸性食品は極力控えてアルカリ性食品中心の食事にするとアルカリ性体質になって健康になるといった主旨の記事もあったりします。
管理栄養士の友人によれば、かつては食品をアルカリ性食品と酸性食品に分類する考え方が、栄養学の世界にもあったそうです。
ところが1980年代に国内で行われたいくつかの研究によってその分類の根拠が完全に否定され、今や食品を「アルカリ性食品」と「酸性食品」に分類する考え方は栄養学の教科書から消えているそうです。
食事で大切なのは「栄養バランス」
確かに、酸性食品とされる肉類や穀類などに偏った食事を続けていれば、高カロリー・高脂肪により肥満や高血圧、糖尿病といった、いわゆる生活習慣病につながりかねません。
一方のアルカリ性食品とされる野菜や果物、きのこ類には、ビタミンやミネラルといった必須栄養素や食物繊維がより多く含まれていますから、健康上、毎日欠かせない食品であることは改めて言うまでもないでしょう。
ですから、毎日の食事で大切なのは、食品をアルカリ性と酸性に分けるのではなく、それぞれの食品の栄養的価値を考えながらバランスのよい食事をすることです。
その方法として、栄養学的な知識がない方でも、食材選びに迷うことなく必要な栄養素をバランスよくとる方法として「まごたち食」という食事のとり方が提案されています。
この「まごたち食」については、こちらで紹介していますので是非参考にしてみてください。

酸性とアルカリ性のバランスは保たれている
締めくくりとして、少し前に内科医を取材した折にうかがった少し医学的な話を紹介しておきます。
私たちのからだには、酸塩基平衡(さんえんきへいこう)といって、体内で酸性とアルカリ性のバランスを保とうとする機能、つまり体液や血液のPh(ペーハー;ある液体が酸性なのかアルカリ性なのかを示す単位で、ph7.0が中性)を一定の範囲内に保つ仕組みが備わっているそうです。
この機能により、体内はおおむね弱アルカリ性(ph7.4)に保たれていて、食事の内容などにより酸性に傾いたりアルカリ性に変化したりするようなことは、背景によほど深刻な病気でもない限りありえない。「食べるものの栄養バランスをよくするように心がける」ことが大切、ということを最後にお伝えしておきたいと思います。