子どもの治療用眼鏡は保険適用だが大人用は?

子どものメガネ保険の話
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大人の眼鏡・コンタクトレンズに公的医療保険は使えないが……

9歳未満のお子さんに、弱視(じゃくし)等の治療のために眼鏡やコンタクトレンズが必要と医師が判断した場合、その購入費用は公的医療保険(以下、医療保険)の対象になります。「だったら大人の眼鏡やコンタクトレンズも……」と期待したいところです。

しかし大人の場合は、近視や乱視、老眼などで眼鏡やコンタクトレンズを作っても、通常その購入費用に医療保険は使えず、全額自己負担、つまり自費となります。私自身、眼鏡もコンタクトレンズも使っていますが、いずれも安い買い物ではありません。しかも、近視や乱視、老眼の度数が進めば、その都度買い替えが必要になりますから費用がかさみ、「なぜ医療保険を使えないの?」と疑問に思う方も少なくないでしょう。

かかりつけの眼科医にこの疑問をぶつけたことがあるのですが、答えは実に簡単――。近視や乱視、老眼に眼鏡やコンタクトレンズを使用しても、視力が回復したり乱視が治るわけではない、つまり眼鏡やコンタクトレンズは視力を矯正するためのもので、治療のためのものではないからだそうです。

したがって医療保険は使えませんが、大人用の眼鏡やコンタクトレンズが治療のために直接必要であることを医師が認めていれば、購入費用は医療費控除の対象となります。

ということで、今回は眼鏡やコンタクトレンズの購入にかかる費用について書いてみたいと思います。

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9歳未満で治療用眼鏡等を医師の指示で作成するとき

まず、視覚機能が発達するうえで大切な時期にある9歳未満(0~8歳)のお子さんの場合です。この時期に装用する眼鏡やコンタクトレンズは、視力を矯正するためではなく、目から入った情報が脳に正しく伝わり、脳の中できちんと映像を描けることを目的に処方されるものです。

通常私たちは、外界からの情報の80%余りを視覚から得ています。目で見たものがきちんと脳に伝わるように眼鏡やコンタクトレンズを装用することは、日常生活を送る上できわめて重要ですから、「治療」の範疇に入ると考えられているわけです。

具体的には、眼科の主治医が「弱視(じゃくし)」「斜視(しゃし)」「先天性白内障(せんてんせいはくないしょう)」の治療に眼鏡あるいはコンタクトレンズが必要と判断して処方箋を発行すれば、その眼鏡やコンタクトレンズの作成、購入費用に医療保険が適用されます。

ちなみにこのときの処方箋は、正確には「治療用眼鏡等作成指示書」と言います。この指示書に特に決められた書式はありませんが、日本眼科学会が作成した書式*¹を活用することもできます。

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医療保険の自己負担分だけで治療用眼鏡等を購入できる

医療保険が適用になれば、眼鏡やコンタクトレンズの購入にかかる費用を医療保険の自己負担分(3割または2割)のみに抑えることができます(自治体によっては、この自己負担分を補助する制度があります)。

この場合の支払いですが、「検査や治療にかかる費用」であれば、ご承知のように、病院など保険医療機関の会計窓口で自己負担分のみを支払うことになります。しかし眼鏡やコンタクトレンズの購入費は、治療費ではなく「療養費」扱いとなります

療養費の場合は、購入代金の全額を眼鏡やコンタクトレンズを作成した眼鏡店等でいったん支払い、その後加入している健康保険組合の窓口等(お手元の保険証に明記してあります)に必要な書類*を添えて申請し、後日購入代金の7割または8割を還付金として受け取ることになります。

ただし医療保険が適用になる購入代金には上限があります。2019(令和元)年10月1日の改訂以降その上限金額は、眼鏡はフレームとレンズを合わせて上限が38,902円、コンタクトレンズはレンズ1枚につき上限が16,324円となっています。

たとえば自己負担が3割の方が25,000円の眼鏡を購入した場合、補助の対象となるのは購入代金の7割ですから、25,000×0.7=17,500円の給付が受けられます。購入代金が補助の上限を超えて50,000円の場合の給付額は、上限の38,902×0.7=27,231円です。

なお、医療保険適用の治療用眼鏡等を作成する眼鏡店(製作所)については、薬事法に規定する高度管理医療機器または一般医療機器の製造または販売について厚生労働大臣の認可を受けていることが条件となっています。購入する際には、この認可の有無を確認することをお忘れなく。

この条件を満たす最寄りの眼鏡店については、「治療用眼鏡等作成指示書」、いわゆる処方箋を発行した医師にお尋ねになれば、教えてもらえるはずです。

*申請に必要な書類
1.療養費支給申請書(加入している健康保険組合の窓口にある)
2.眼科主治医発行の「治療用眼鏡等作成指示書」のコピーと治療用眼鏡等装用後の視力検査結果
3.購入した治療用眼鏡やコンタクトレンズの領収書

治療用眼鏡等の更新時にも医療保険が使える

治療用に作成した眼鏡やコンタクトレンズは、度数の調整などで更新が必要になることがあります。この更新にかかる費用についても、次の条件に該当すれば医療保険を使うことができます。

  • 5歳未満(0~4歳)の子ども:更新する前の治療用眼鏡等の装用期間が1年以上ある場合
  • 5歳以上の子ども:更新する前の治療用眼鏡等の装用期間が2年以上ある場合

なお、9歳未満の子であっても、一般的な近視などに用いる眼鏡や斜視の矯正用アイパッチおよびフレネル膜プリズムは医療保険の対象外です。

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大人の白内障等の治療に必要な眼鏡等なら医療費控除の対象

大人の眼鏡やコンタクトレンズ等の購入費用に医療保険は使えませんから、全額自費扱いとなります。ただ、一般的な近視や遠視、乱視、老眼等の矯正のためのものは対象外ですが、治療に直接必要な眼鏡やコンタクトレンズであれば、医療費控除の対象となります。

具体的に医療費控除の対象となるのは、眼科主治医が以下の疾患の治療のために眼鏡等が必要と認め、実際に治療が行われた場合に限ります。

  • 弱視・斜視
  • 白内障・緑内障
  • 難治性眼疾患(調節異常、不等像性眼精疲労*、網膜色素変性症、視神経炎、網脈絡膜炎、角膜炎、虹彩炎、無虹彩症)
*不等像性眼精疲労とは、近視や遠視の度数に大きな左右差があるために、網膜に映る像の大きさに左右差が生じ、ものを視るたびにこれを矯正することによって起こる眼精疲労をいう。

医療費控除の対象となるのは、「眼鏡・コンタクトレンズ代金」「全治療費」「通院に要する交通費(付き添いが必要であれば、その方の費用や交通費も含む)」です。控除額は、控除対象の全金額のうち、10万円を超えた分が医療費控除対象額となります。手続きは、次の2点を添えて、眼鏡等を購入した年度末に確定申告をする際に申請する必要があります。

  1. 眼科主治医が交付した所定の処方箋(厚生労働省指定)のコピー
  2. 眼鏡等購入店発行の購入費領収書

医療費控除ですから、支払った購入費の一部が戻ってくるわけではありません。期待できるのは節税効果、つまり所得税及び住民税が安くなることです。

ロービジョンケア用品の購入には市区町村の助成制度利用を

なお、視力・視野障害による身体障害者の認定を受け、身体障害者手帳の交付を受けている方は、遮光眼鏡(まぶしさを軽減させる眼鏡)や拡大鏡、拡大読書器等、いわゆる「ロービジョンケア用品(補助具)」の購入を希望する際には、助成制度か利用できます。

この助成制度は、身体障害者福祉法による日常生活用具の給付制度に基づくものです。該当する方は、お住まいの福祉事務所か市区町村役場の障害福祉担当窓口で、申請に必要な書類や手続きの方法を確認してください。助成内容、つまり給付額は、身体障害の等級により、また市区町村によって異なりますが、原則1割が自己負担で9割が給付されることになります。

なお、身体障害者手帳の交付を受けられる人と受けるために必要な申請の方法等、詳細については、こちらを参照してください。

参考資料*¹:日本眼科学会「弱視等治療用眼鏡等作成指示書」