コロナ禍により「ベジ冷凍」ブーム再来ですが
もう5年ほど前になるでしょうか。
「ベジ冷凍」が人気を集めたことがありました。
その後しばらくして、この言葉自体あまり聞かれなくなっていたのですが……。
このところのコロナ禍により、食材買い出しのための外出を控えるようになったからでしょうか。
「ベジ冷凍」ということが雑誌等で、再び取り上げられ、関心が高まっています。
「ベジ冷凍」とは、「ベジタブル冷凍」、つまり冷凍した野菜のこと。
しかもこれは、冷凍食品としてスーパーなどで売られているものの話ではありません。
まとめ買いしてきた野菜類を、新鮮なうちに水洗いし、調理のときに使うサイズに切るか下ゆでなどをしてから、冷凍用の保存袋に入れ、冷凍保存しておくこと、と私は理解しています。
早い話が、野菜類のホームフリージングです。
冷凍保存しておけば、必要なときに解凍して普通の野菜として使えますから、とても重宝です。
しかも、下ごしらえが必要なものは冷凍前に下ごしらえを終えていますから、時短という点でも助かります。
とは言え、栄養的には果たしてどうなのかということが、ずっと気になっていました。
ベジ冷凍について紹介する記事や本のなかには、この点についてさりげなく「味も栄養もアップする」と書いてあったりもします。
ですが、収穫したばかりの新鮮な野菜を冷凍するとしても、その冷凍に使えるのは家庭用冷凍庫です。
鮮度や栄養価を保つには限界があるのではないでしょうか。
今日はその辺のことにこだわって書いてみたいと思います。
冷凍食品に求められる4条件の一つ「急速凍結」に課題
冷凍食品は、食材がもつ風味や食感、彩り(いろどり)、栄養分、衛生状態のすべてを最大限、収穫したて、あるいは調理したての状態のままに一定期間保存することになります。
そのため、基本的に次の4条件を満たすように生産されています(日本冷凍食品協会の定義*¹による)。
- 前処理をしていること
- 急速凍結していること
- 適切に包装していること
- 食品の温度をマイナス18℃以下で保管していること
このうち、家庭で「ベジ冷凍」する際に課題となるのは、2点目の「急速凍結していること」です。
野菜を含む食材の味や栄養分など品質の低下は、食材の細胞が破壊されることによって起こります。
食材に含まれている水分は、マイナス1℃あたりから徐々に凍り始めます。
そのまま冷やし続けてマイナス5℃ほどになると、食材の細胞の中の水分は氷の結晶になり、食材がコチコチになってほぼ凍結します。
この凍結するまでの時間がかかりすぎると、氷の結晶が大きくなり、食材の細胞破壊が進んでしまいます。
具体的には、細胞の膜が破れたりするわけですが、解凍する際に、その破れた部分から水分が漏れ出し、その水分と一緒に食材のうまみや栄養分も流れ出てしまいます。
マイナス30℃以下まで一気に冷やす
そこで、冷凍食品としての条件を満たすため、マイナス5℃よりさらに低いマイナス30℃以下までいっきに冷やして凍結させることにより、食材の細胞が破壊されて起こるビタミン類等の損失を防いでいるわけです。
これが急速凍結です。
冷凍食品会社では、この急速凍結を、フリーザーとも呼ばれる「急速冷凍機」を使って行っています。
食材にマイナス30℃以下、場合によってはマイナス40℃の超低温冷気を強く吹きつけることにより、いっきに凍結させているわけです。
食品の品質を保って冷凍する急速凍結は、この急速冷凍機でしか行えないと言われています。
ベジ冷凍に使う家庭用冷凍庫の低温の限界はマイナス18℃
一方、一般家庭でベジ冷凍をつくるときに使用するのは、おそらく家庭用冷凍庫でしょう。
家庭用冷凍庫は、冷凍食品の品質を高く保存するためのものです。
そのため、なかにはマイナス25℃くらいまで下げられる機種もあるようですが、一般的な家庭用冷凍庫の低温の限界はマイナス18℃ではないでしょうか。
これに、冷凍庫のドアを開け閉めする際の温度上昇を考え合わせると、マイナス18℃を維持すること自体、そう簡単な話ではないと言っていいでしょう。
結果として、短い時間でいっきに野菜などの食材を凍結させるのは難しく、野菜が完全に凍るまでにはかなりの時間がかかります。
その間には、野菜の中の水があちらこちらで集まって、氷の結晶が大きくなります。
そのため調理する段階になって解凍すると、氷が溶けると同時に栄養分も一緒に溶け出してしまいます。
このように考えると、家庭でつくるベジ冷凍のうまみや栄養分を急速凍結された市販の冷凍野菜や採りたての野菜と同程度に維持すること自体、なかなか難しいのではないでしょうか。
自分でつくるベジ冷凍より野菜類の素材冷凍食品を選びたい
そこで私は、正直、手間を省きたいという思いもあるのですが、自分でベジ冷凍する代わりに、採りたての野菜や果物を急速凍結させた素材冷凍食品を購入するようにしています。
素材冷凍食品に使われている野菜や果物のほとんどは、生産量が多く、価格も安定している点から、その時々の旬のものが選ばれていると聞きます。
そのため、街のスーパーなどで購入する野菜や果物類よりも、素材本来の栄養価は高いとさえ言われます。
栄養価を保つための課題は、購入方法と、買って持ち帰った後の冷凍保存方法、およびその解凍方法です。
この点については、こちらの記事で詳しく書いていますので参考にしていただけたら幸いです。
参考資料*¹:日本冷凍食品協会Webサイト