コーヒー好きな友人の妊娠にカフェインの影響が心配
「高齢ながらやっと妊婦さんの仲間入りができました――」
と、うれしいメールが届きました。
高齢と言っても彼女は36歳です。
晩婚化の進行に伴い、妊娠を初めて経験する女性の年齢も年々上昇傾向にあると聞きますから、36歳はいわゆる高齢出産に該当はするものの、さほど深刻なリスクはないと言っていいでしょう。
ただ、妊娠の報告メールを受けとり、一つだけとても気になったことがあります。
彼女がかなりヘビーのコーヒー党であることです。
おそらくは、月刊誌の編集者という仕事も影響しているのでしょう。
デスクに向かっているときだけでも、1日に7~8杯は飲んでいるようなのです。
それも、ビッグサイズのマグカップで……。
そういえば、コーヒーの特徴的な成分であるカフェインについて、
厚生労働省がWebサイト上で、過剰摂取による健康被害に注意するよう呼びかけています。
そのなかで、妊娠への影響について触れていたことを思い出し、改めて詳しく調べてみました。
カフェインの過剰摂取に厚生労働省が警告
彼女から「そろそろ子どもが欲しいねって夫と話しているの」と初めて聞いたのは、3年ほど前のこと。
そのとき私が彼女に伝えたのは、
「だったら、コーヒーは極力控えたほうがいいわね」ということでした。
今飲んでいるコーヒーのせめて半分は、ノンカフェインに替えたほうが安心だろうと助言したのですが、残念ながら聞き入れてもらえませんでした。
ちょうど時期を前後して、厚生労働省がWebサイト上に、
「食品に含まれるカフェインの過剰摂取について」と題するQ&Aコーナーを新設しています*¹。
そこでは、コーヒーや清涼飲料水などの食品に含まれるカフェインを摂りすぎると、中枢神経系の刺激によるめまい、脈拍数の増加、興奮、不安、からだのふるえなどのほか、消化管が刺激されることによる食欲不振、下痢や吐き気、嘔吐などのつらい症状を自覚することがあると警告しています。
これらはカフェイン中毒と呼ばれるような急性の症状です。
しかし、カフェイン飲料などを飲み続けることによる長期的な影響もあり、肝機能が低下している人では高血圧につながるリスクも確認されていると説明しています。
カフェイン過剰摂取により骨がもろくなるリスクも
また、カルシウム摂取量が少ない人がカフェインを過剰に摂り続けていると、体内のカルシウム量が低下して骨がもろくなり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の発症リスクが高まるとも指摘されています。
長期的には、精神面への影響も無視できません。
カフェインを体に入れていないと「気持ちが落ち着かない」「集中できない」「不安になる」「イライラしてくる」と言ってはついまた飲んでしまう、といった「依存(いぞん)」の問題も起こり得るのです。
この場合の依存とは、悪い習慣のこと。
アルコール依存やニコチン依存のように、束の間の快感のために、「よくないことだとはわかっているのにやめられない」という状態です。
このような心身両面への健康被害を避けるために、
「カフェインの過剰摂取に注意しましょう」と、呼びかけているのです。
妊娠中は胎児にもカフェインの影響が及ぶ可能性が
では、カフェインの適量とはどのくらいなのでしょうか。
「このくらいまでなら健康にマイナスの影響は生じないだろう」と推定されるカフェインの1日摂取許容量については、個々の食習慣が影響することに加え、カフェインに対する感受性には個人差が大きいことなどもあって、日本を含め世界レベルでは明確に設定できていません。
ただし、妊娠中の女性については話は別です。
たとえばWHO(世界保健機関)は、現時点では胎児へのカフェインの影響は確定してはいないがと断ったうえで、コーヒーは1日3杯から4杯までにするよう呼びかけています。
カフェイン飲料は数多くありますが、特にコーヒーだけに言及しているのには理由があります。
煎茶や紅茶、ココア、コーラタイプの飲料等に含まれるカフェインに比べ、コーヒーには、それらのほぼ2倍ほどのカフェインが含まれているからとのこと――。
妊娠中に加え授乳中や妊娠を計画している女性もカフェイン制限を
イギリスの食品基準庁(FSA)も、妊婦がカフェインを摂り過ぎると胎児の発育が阻害され、出生時の低体重がその子の将来の健康リスクを高めてしまう可能性があることを指摘。
妊婦向けにカフェイン摂取に関する注意喚起を行っています。
そのなかで示されているカフェインの摂取制限はWHOのそれよりもさらに厳しく、妊娠中は1日のカフェイン摂取量を極力200㎎までに抑えるよう求めています。
この量は、コーヒーで言えば、通常サイズのマグカップのほぼ2杯程度です。
同様にカナダの保健省(HC)も、妊婦や授乳中および妊娠を計画している女性にはカフェインの影響がより大きいことを指摘しています。
そのうえで、該当する女性は1日のカフェイン摂取量を300㎎未満(237㎖のマグカップで約2杯強)とするよう促しています。
日本では妊婦等のカフェイン摂取許容量の設定はないが……
一方わが国ではどうかというと、現時点では、妊娠中や妊娠を計画している女性に限らず健康な成人についても、カフェインの1日摂取許容量は特に設定されていません。
内閣府に設置されている食品安全委員会などが、カフェインが健康に及ぼす悪影響について情報の収集・分析、つまりリスク評価に取りかかっている段階にあると聞きます。
その結果が公表されるまでは、WHOや諸外国が提示している1日摂取許容量などを参考に、くれぐれも過剰摂取にならないようにしたいものです。
ちなみに、妊娠中のコーヒーに代わる飲み物としては、豆乳はいかがでしょうか。
豆乳のような大豆製品が妊娠中の健康にプラスに作用することは、国内外の多くの研究で確認されています。
詳しくはこちらの記事を読んでみてください。
エナジードリンク1本にはコーヒー2杯分のカフェイン
ところで、カフェインは、天然の植物に含まれる成分で、アルカロイドという有機化合物の仲間です。
「コーヒー豆」を筆頭に、緑茶やほうじ茶、玄米茶、紅茶、烏龍茶(ウーロン茶)などの原料である「茶葉」、ココアやチョコレートの原料である「カカオ豆」などにも多く含まれています。
いずれも私たちが嗜好品として日常的に飲んだり食べたりしているものばかりです。
加えて最近は、同じカフェイン飲料ながら、いわゆるエナジードリンクのような「眠気覚まし」や「眠気防止」をアピールするカフェイン添加の清涼飲料水も多数出回っています。
この種の飲料水には、缶や瓶1本当たりコーヒー2杯分に相当するカフェインが含まれています。
なかにはもっと多くのカフェインが含まれているものもあるようです。
市販の眠気防止薬にも多量のカフェインが
このような飲料水を、「眠気覚ましにいいから」といって1日に何本も続けて飲んだり、コーヒーなどのカフェイン飲料やカフェインの錠剤やカプセルなどと併用したりすると、カフェイン摂取量が過剰となり、カフェインの急性中毒につながる恐れがあります。
また、街の薬局で購入可能な「眠気防止薬*」として売られている一般医薬品のなかにもカフェインを含んでいるものがあります。
この種の医薬品をコーヒーやお茶などのカフェインを含む飲料と同時に服用すると、カフェインの過剰摂取につながるリスクがあります。
いずれの場合も、飲料水の場合は製品に記載されている表示を、また医薬品なら添付文書をよく読み、用法、用量を守って摂取したり服用したりするようにしたいものです。
コーヒーなどのホットドリンクについては、飲む温度によっては食道がんの発症リスクになるという話をこちらの記事で書いています。併せて読んで、ご注意ください。
→ コーヒー飲むなら「熱すぎず少しぬるめ」と適量がいい
なお、妊娠・出産費用の助成制度についてはこちらで詳しく解説しています。
参考にしていただけたら嬉しいです。
→ 妊娠・出産費用の助成は不妊治療だけではない
参考資料*¹:厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A」