妊娠・出産費用の助成は不妊治療だけではない

妊娠した女性保険の話
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正常な妊娠・出産費用にも助成制度が用意されている

菅(すが)政権は誕生当初、少子化対策に立ち向かう新たな施策として、
「不妊治療への保険適用」を打ち出しました。

これまで自費扱いだった不妊治療の一部についても公的医療保険(いわゆる「健康保険」)で受けられるように改める、というものです。

しかし、この方針を歓迎したのは一部の方だけだったようです。

今まさに妊娠中だったり、これから妊娠・出産を考えているという女性の多くから、
「どうして不妊治療だけが優遇されるの?」
といった声があがっていたものです。

確かに、人工授精や胚移植といった不妊治療のなかには、健康保険が適用されないために、治療費が驚くほど高額になるケースが少なくないと聞きます。

その経済的負担を軽減しようと、すでに「特定不妊治療費助成制度」が設けられているわけですが、年齢制限や所得制限があって必ずしも十分なものとは言えないようですから、何らかの救済制度が必要でしょう。

ただ、普通に妊娠して出産し、子どもを育てていこうというカップルにとって今回の政府の方針は、
どうしても「不妊治療ばっかり」の感がぬぐえないようです。

ごく最近も身近でそんな声を耳にしました。

そんなこともあり、正常の妊娠や出産にかかる費用を助成する制度には今のところどんなものがあるのか、改めて整理しておきたいと思います。

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妊娠届を出せば必ず受けられる妊婦健診助成制度

妊娠中は誰でも、いつも以上に健康に気をつけなければなりません。

特に、貧血や高血圧、糖尿病などのリスクを抱えている女性の場合は、そのリスクがお腹の赤ちゃんの発育に影響するだけでなく、妊婦さん自身の健康にも響いて思わぬ異変を招くこともありますから、無事に出産するためには妊婦さんと赤ちゃん双方の定期的な健康チェックが欠かせません。

そこで、異変があればすぐに気づいて対応できるようにと、
▪妊娠していることがわかった妊娠初期から妊娠23週までは、少なくとも4週間に1回、
▪妊娠24週(第7カ月)から妊娠35週までの間は2週間に1回以上、
▪さらに妊娠36週(第10カ月)以降出産までの間は毎週1回、
妊婦健康診査(いわゆる「妊婦健診」)として、病院や診療所などで健康チェックを受けることがすすめられています。

仮に妊娠8週頃に妊娠がわかり1回目の妊婦健診を受けた場合、出産までに最低でも14回、妊婦健診を受けることになります。

妊婦健診の「受診票」により費用の一部助成を受けられる

妊娠は病気ではありませんから、基本的に妊婦健診に健康保険は使えず、原則全額自己負担です。

1回の受診料(検査費用)は3,000~5,000円ほどです。

健診の結果によっては健診内容が変わることもあり、場合によっては1万円以上かかることもあるわけすが、幸い、妊婦健診にかかる費用には、公費による助成制度があります。

この妊婦健診費の助成制度を利用するには、妊娠していることがわかったら、住民登録をしている自治体(市区町村)の役所や保健センターに「妊娠届」を提出する必要があります。

妊娠届を提出すると、「母子手帳」と一緒に、通常、最低14回分の妊婦健診の「受診票」(「補助券」と呼んでいる自治体もある)と1回分の妊婦超音波検査受診票、および1回分の妊婦子宮がん検診受診票を受けとることができます(自治体によって受けられる助成回数や助成金額が違うことがあります)。

この受診票で健診を受けることができる医療機関は限られているのですが、その医療機関で受診票を提出して妊婦健診を受けると、助成上限額の範囲内で妊婦健診費用の一部助成を受けられます。

なお、妊婦健診受診票の使用可能な医療機関および助成上限額については、各自治体(市区町村)の公式Webサイトにある「妊娠がわかったら」などのコーナーで公表されていますから、確認してみてください。

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健康保険加入者の出産に支給される「出産育児一時金」

妊娠と同じように出産も病気ではありません。

そのため、異常分娩などで医療行為が行われた場合*を除き、出産にかかる費用に健康保険は適用されませんから、全額自己負担となります。

ちなみに、1回の出産(自然分娩による)にかかる費用は50万円前後と概算されています。

*健康保険が適用となる異常分娩には、陣痛促進薬を使用しての分娩、帝王切開分娩、鉗子分娩、吸引分娩、切迫流産が該当する。

出産費用については、経済的負担を軽減するための支援制度があります。

健康保険の加入者(被保険者本人および夫の扶養に入っている場合)が妊娠期間が満12週以上(85日以上)で出産したときは、「出産育児一時金」(夫の扶養家族の場合は「家族出産育児一時金」)として赤ちゃん1人につき、42万円を受け取ることができるのです。

この場合の「妊娠12週以上の出産」には、早産、死産、人工妊娠中絶(経済的理由による場合も)も含まれ、通常の出産と同じ扱いで出産育児一時金支給の対象となります。

ただし、赤ちゃんが分娩時の何らかの理由により重度の脳性麻痺(のうせいまひ)となり、生後速やかに「産科医療補償制度」による補償を受ける場合には、一時金は39万円に減額となります。

出産育児一時金の「直接支払制度」と「受取り代理制度」

この出産育児一時金を受け取る方法には、「直接支払制度」と「受取り代理制度」があります。

前者の「直接支払制度」とは、出産にかかる費用に出産育児一時金を充てることにより、本人が医療機関などの窓口で支払う出産費用を極力抑えられるように用意された制度です。

本人に代わって医療機関などが健康保険組合に出産費用を請求し、健康保険組合から出産した医療機関などに一時金が直接支払われるという仕組みになっています。

出産費用として医療機関や産院などに支払うためにまとまった額を用意する必要がないことから、この支払い方法を選択する方が多いようです。

医療機関等に一時金が直接支払われる方法を希望しない方は、「受け取り代理制度」により、出産後に被保険者側から保険者に申請したうえで、一時金の支払いを受けることになります。

健康保険加入者が出産すると「出産手当金」を受けとれる

会社員や公務員として働き、健康保険(組合健保、協会けんぽ、各種共済組合)に加入している女性が出産のために仕事を休み給料が支払われなかったときは、その間の生活保障の意味で加入している健康保険組合から「出産手当金」の支給を受けることができます。

パートや派遣社員も対象となりますが、年収が130万円未満で夫の扶養に入っている方、および国民健康保険の加入者には、この出産手当金は支給されません。

支給の対象となるのは産前産後休業、いわゆる産休の期間中です。
具体的には、出産予定日の42日前(双子以上の場合は98日前)から出産の翌日以降56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間が対象となります。

1日当たりの支給額は、次の計算式で概算できます。
「支給開始日以前1年間の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3」

ここでいう「標準報酬月額」とは、残業代や交通費などを含む総支給額を決められた幅でランクづけしたようなものですが、金額的には給料と大差ありません。

具体的な額は、国民年金および厚生年金の加入者に、毎年1回、本人の誕生月に「葉書」もしくは「封書」で送られてくる「ねんきん定期便」に記載されています。

「ねんきんネット」のユーザーIDを取得している方は、インターネットでダウンロードして「標準報酬月額」を確認することもできます。

民間の医療保険も備えになるが、妊娠前の加入が条件

妊娠・出産の過程には何かと健康トラブルも起きがちです。
特に多いのは、切迫流産や帝王切開分娩、鉗子分娩といった異常分娩でしょうか。

このような健康保険が適用となるようなケースには、高額療養費制度などの支援も受けられます。

→ 医療費が一定額を超えたら「高額療養費」の申請を

加えて、備えとして民間の医療保険に用意されている女性疾病に加入しておくことも安心材料の一つとなります。

ただしこの特約については、妊娠前の加入が条件となっている保険会社が多いようですのでご注意を。

詳しくはまた別の機会に紹介したいと考えています。