コーヒーを飲み過ぎるとがんになるのでは……
出版とか編集といった仕事に関係している人が多いこともあるのでしょうか。私の周りにはコーヒー党が多く、彼らは1日に軽く5~6杯は飲んでいます。
全日本コーヒー協会の統計を見ると、日本人が1週間に飲むコーヒーの平均は、1人10杯程度とのこと*¹。
毎日5~6杯飲めば2日で1週間ぶんの平均をなんなくクリアしてしまいます。
彼らも、自分が飲み過ぎていることを少しは自覚しています。
それでも「飲まずにはいられない」ようで、飲みながら、多くの方が、おおよそ次の二つのことを気にしつつ飲んでいます。
一つは、「あまり飲み過ぎるとがんになるのでは……」ということ。
もう一つは、カフェインの摂りすぎによる健康被害です。
ということで、今日はこの2点について調べたことを書いてみたいと思います。
コーヒーに発がん性の可能性を示すエビデンスはない
まず前者の、コーヒーの発がん性ですが、結論から言えば、飲み過ぎによるがんの心配はないようです。
2016年6月、WHOの外部組織である「国際がん研究機関」、通称IRACの研究チームが、「コーヒーに発がんの可能性を示す確実なエビデンス(科学的根拠)はない」とする研究結果を発表しているのです。
加えてそこには、肝臓がんや子宮がんについて言えば、コーヒーは、むしろ発がんリスクを減らすとの研究結果が添えられていて、コーヒー党をホッとさせてくれたものです。
実は、ここで示された肝臓がんとコーヒーの関係については、IRACのこの発表より10年もさかのぼる2005年に、わが国の、国立がん研究センターのがん予防研究チームが、コーヒーをよく飲んでいる人はほとんど飲まない人と比べ、肝臓がんの発症率が低いことを確認していました。
ただ、この研究では、肝臓がんの発症に関連があるとされる「アルコール飲酒」や「喫煙」の影響について合わせて検討することは、行われていませんでした。
そのため、コーヒーの摂取量だけで肝臓がんとの因果関係を評価することはできないとの考えから、広く一般に知らされるところとはならなかったようです。
コーヒーの成分ではなく温度に食道がん発症リスクが
こうした経緯もあり、コーヒーそのものの発がん性を否定するIRACの報告は、多くのコーヒー党にとってホッとするものだったようです。
ただし、これで安心してコーヒーを飲んでいいということにはなりませんでした。研究チームは、コーヒーの発がん性を否定する朗報を伝える際に、こんなことを付け加えているのです。
「発がん性の危険があるのは、コーヒーの成分そのものではなく、コーヒーの温度と思われる。このリスクは、ホットコーヒーに限ったことではなく、あらゆるホットドリンクに共通して言えることである」
つまり、コーヒーだけでなく、日本人で言えば味噌汁も、緑茶類も、「非常に熱いホットドリンク」を飲み続けていると、食道がんを発症させる危険があると、警告したのです。
ホットコーヒーや熱い料理は「65度以下」に冷ましてから
では、「非常に熱いホットドリンク」とは、具体的に何度以上なのでしょうか――。
この疑問に研究チームは、「65度以上」と答えています。
ホットコーヒーも65度以下であれば発がん性を気にする必要はないというわけですが……。そう言われても、コーヒーを飲むたびに温度計でチェックするわけにはいかないでしょう。
コーヒーを美味しく淹れるにはできるだけ沸騰直後のお湯で煎れるのがいいと聞きます。
ということは、淹れたてのコーヒーは90度以上あるということでしょうか。
この淹れたてのホットコーヒーが入ったカップに両手を添えていられるぐらいまで冷めていれば、コーヒーは65度以下になっていると考えていいようです。
これは、味噌汁のようなスープ類やホットミルクなどにも言えることです。
さらに言えば、熱いうどんや茶わん蒸しなどをフーフーしながら食べるのも、お行儀がよくないだけでなく、発がんリスクの点からもやめたほうがよさそうです。
コーヒーの飲み過ぎとカフェインによる健康被害
コーヒーの飲み過ぎで気になるもう1点が、カフェインによる健康被害です。
この点については、3年余り前になりますが、厚生労働省がWebサイトに、「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A~カフェインの過剰摂取に注意しましょう」*²というコーナーを新設して、広く国民に注意喚起を行っています。
厚生労働省がこのコーナーを新設したのは、当時(2017年)、救急搬送された急性カフェイン中毒の患者が心停止を起こして死亡する、といったケースが何件か続いたことがきっかけとなったようです。
心停止に至った患者はいずれもコーヒーだけでなく、眠気防止薬として市販されている栄養ドリンクやカフェイン入り錠剤、カプセル、さらに加えてエナジードリンクのような清涼飲料水も服用していたようです。
コーヒー100mlに紅茶の2倍のカフェイン約60㎎が
カフェインは天然の植物由来の成分です。
コーヒーだけでなく、紅茶、緑茶、抹茶、ウーロン茶、さらにはココアやチョコレートの原料であるココア豆など、私たちが嗜好品として昔から日常的に飲んだり食べたりしているものの多くに含まれています。
カフェインには交感神経を刺激して、眠気を抑えたり、疲労感(だるさ)を和らげたりして、体も気持ちもしゃきっとさせる働きがあります。
この効果を期待して、私たちは目覚めの一杯から始まり、1日に何杯かのコーヒーや紅茶、緑茶などのカフェイン飲料を口にしています。
厚生労働省の先の資料によれば、コーヒー100mlに含まれるカフェインは約60㎎、紅茶なら30㎎、煎茶やウーロン茶では20㎎とのこと。
この程度のカフェイン量であれば、リラックスや気分転換のために飲んでいるぶんには、健康被害の心配はまずないと考えていいようです。
コーヒーに含まれるカフェインには「依存」の問題も
ただし、一度に多量のカフェインを摂取すると、急性のカフェイン中毒に、また長期的に飲み続けていると、肝機能が低下している方では高血圧に、さらにはカルシウム摂取量が少ない方では骨粗鬆症(こつそしょうしょう)につながるリスクが指摘されています。
長期的には、カフェインを体に入れていないと「気持ちが落ち着かない」「不安になる」「イライラしてくる」ためについ飲んでしまう、といった「依存」の問題も起こり得るのです。
カフェイン量から考えるとコーヒーは1日5杯までに
では、カフェインの適量とはどのくらいなのかという話になるわけです。
ただし、健康にマイナスの影響が生じないと推定されるコーヒーなどカフェイン飲料の1日当たりの摂取許容量は、食習慣なども影響して個人差が大きいことから、日本を含め世界レベルでは設定されていません。
とはいえ、いくつか目安はあります。
たとえばアメリカの保健福祉省(HHS)と農務省(USDA)は、健康な成人の場合として、1日のカフェイン摂取の適正量を400㎎としています。
一般的なコーヒーカップ1杯を150mlとして、100mlのカフェイン量を60㎎で計算すると、1日に4杯、多くて5杯までということになります。
妊娠中ならコーヒーはさらに控えめに
一方、WHOは、妊娠中の女性に対し、胎児への影響を避けるために、紅茶などに比べカフェインの多いコーヒーは1日3~4杯までとするよう呼びかけています。
イギリスの食品基準庁(FSA)も、妊婦向けにカフェイン摂取に関する注意喚起をしているのですが、こちらはWHOよりも厳しく、1日のカフェイン摂取量を200㎎以下に抑えるように求めています。
この量をコーヒーで言えば、通常サイズのコーヒーカップで2杯までです。
現在私たちの国では、内閣府の食品安全委員会などがカフェインの摂取許容量の決定に向け、カフェインの健康被害に関する情報収集・分析作業に取り掛かっていると聞いています。
この結果が出されるまでは、コーヒーは1日多くて5杯までと決め、カフェインだけに頼らない眠気対策や心身ともにシャキッとする方法を自分なりに考えながら、健康を守っていきたいものです。
参考資料*¹:全日本コーヒー協会「日本のコーヒーの飲用状況」