トマトは生ではなくオリーブオイルで加熱して
かつては夏野菜の代表でしたが、今やオールシーズン手に入る「トマト」にまつわることわざは世界中に数多くあると聞きます。
なかでも最もポピュラーなのは、「トマトが赤くなると医者が青くなる」とか「トマトを食べれば医者いらず」といったヨーロッパに古くから伝わることわざでしょうか。
トマトには、美と若さを保つ栄養素として知られる「リコピン」が豊富に含まれています。
リコピンは、動脈硬化による心血管系の疾患や老化の原因となる活性酸素、いわゆる「体のサビ」を取り除く抗酸化作用が高く、血管を若々しくしてくれるのです。
リコピンは、トマトに多く含まれる赤色の色素成分で、スイカなど数種類の野菜や果物にも含まれていますが、とりわけトマトの含有量は多く、トマトはリコピンの主な摂取源となっています。
リコピンの抗酸化作用は、ニンジンやカボチャ、ブロッコリーなどに含まれるβ-カロテンよりも一段と強いことが確認されています。
この非常に強い抗酸化作用により、トマトが実る夏になると病気になる人が減って患者がいなくなることから、「医者が青ざめる」と言われるようになったのだそうです。
確かに的を得ているのですが、医者を青ざめさせるにはひとつだけ条件があると言われています。
トマトは生のままではなく、オリーブオイルを使って加熱し、トマトソースにして食べることだと――。
しかし、私たちの国では、トマトは生で食べることが多いのではないでしょうか。
そこで今日は、トマトのリコピンを如何にして効率的にとるかという話を書いてみたいと思います。
トマトの「リコピン」とオリーブオイルの「オレイン酸」
トマトに多く含まれる「リコピン」には、加熱に強く、水に溶けず油に溶けやすいという性質があります。
リコピンのこの性質をフルに活かそうと、トマトとオリーブオイルでつくったトマトソースを料理の基本にしているのが、最高の食事療法として世界的に名の知られた「地中海式ダイエット」です。
オリーブオイルは、オリーブの実を絞ってつくられることから「オリーブのフレッシュジュース」とも呼ばれていますが、発祥の地は地中海地方です。
この地中海沿岸に暮らす人びとには、心筋梗塞のような動脈硬化による生活習慣病が非常に少ないことが統計値などで明らかにされています。
その理由は、一年を通しての温暖な気候もさることながら、この地域の人びとが毎日の食事で好んで摂っているオリーブオイルにあることが指摘されています。
オリーブオイルには、不飽和脂肪酸の「オレイン酸*」が大量に含まれています。
このオレイン酸には、コレステロールを減らして動脈硬化を防ぐ働きがあります。
こうした働きにより、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管系疾患の発症リスクを大幅に下げることが、地中海沿岸に暮らす人びとの健康に大きく貢献しているわけです。
リコピンとオレイン酸の相乗効果で血管を若々しく
トマトの「リコピン」とオリーブオイルの「オレイン酸」が合わさると、相乗効果によって血管が若々しくくなり、心筋梗塞など心血管系疾患の予防効果も倍増するといわれています。
オリーブオイルのオレイン酸がリコピンの吸収率を格段にアップさせ、健康効果を倍増させることは、スペインで行われた実証実験で確認されています。
「生のままのトマトを食べたグループ」と「トマトソースを食べたグループ」「オリーブオイルで調理したトマトを食べたグループ」それぞれの食前と食後6時間の血液検査値を比較したところ、オリーブオイルで調理したトマトを食べたグループが、総コレステロール値*が最も低下することが実証されたというのです。
オリーブオイルで加熱調理したトマトソースがおススメ
この結果を聞き、「だったら、トマトサラダにオリーブオイルをかけるだけでも動脈硬化の予防効果は高まるのではないかしら」と考える方がいるかもしれません。
しかし、トマトは生ではなく加熱して食べたほうがリコピンの吸収率が倍増することがわかっていますから、やはり「オリーブオイルで加熱調理する」ことがポイントとなります。
それと、リコピンの1日摂取量の目安は15~20㎎と言われています。
この量をトマトに換算すると1日250~500gとなり、やや大きめのトマト2~3個になるのですが、トマトを生のまま1日に2~3個食べるのはちょっと大変です。
では、オリーブオイルで加熱調理してトマトソースにすればどうでしょうか。
パスタにかけたり、ピザならマルゲリータ、チキンのトマトソース煮など、いろいろな組み合わせが可能ですから、毎日でも飽きずに必要量を食べることができます。
気になるトマトのカロリーと糖質は?
どんなに健康上いいものであっても食べ過ぎるのは禁物で、トマトも例外ではなく、トマトのカロリーと糖質はやはり気になれます。
普通のトマトは、全体の94%が水分ですから、カロリーは100g20kcalと、数ある野菜のなかでも低い部類で、やや小さめのトマト1個(150g)のカロリーは30kcal前後、糖質は5~6gです*¹。
この程度なら、ダイエット志向の方もほとんど気にならないでしょう。
ところが、プチトマトあるいはチェリートマトとも呼ばれる「ミニトマト」になると、水分が少ないぶんカロリーも糖度も高くなります。
とは言え、手軽に食べやすいからといって、つい食べ過ぎてしまわないかぎりは、気にするほどのことではないでしょう。
最近は普通のトマトとミニトマトをかけあわせるなどして品種改良を施した「ミディトマト」も、スーパーなどで目につきますが、カロリーも糖度もミニトマトと大差ないようです。
なお、リコピンは身の部分より果皮(かひ)に多く含まれているため、果皮の割合の多いミニトマトの方がリコピンを効率よくとることができるといわれています。
また、トマトは寒さに弱く、その保存は、夏は冷蔵庫の野菜室でOKですが、秋冬は常温で保存した方が、リコピンが、場合によっては60%も増える、ということもお伝えしておきたいと思います。
糖度もカロリーも高くなる「フルーツトマト」
しかし、最近さまざまなブランドものが出回っている「フルーツトマト」となると、甘くて食べやすいだけにカロリーや糖度が気になります。
農林水産省の説明*²によれば、普通のトマトの水分量を極力抑えて栽培し、完熟(かんじゅく)させて糖度を高めたものがフルーツトマトとして市販されているようです。
普通のトマトの糖度は4~5度程度ですが、フルーツトマトのなかには果物並みの10度以上になっているものもあるようです。
フルーツトマトについては、食品成分表にリストアップされていませんので、カロリーがどの程度かははっきりした値はわかりません。
しかし、糖度が普通のトマトの倍以上ということは、カロリーも倍はあると考えた方がいいでしょう。
と言っても、一般の果物と同程度の低いカロリーですから、「甘くておいしいから」と食べ過ぎないかぎりは、あまり気にする必要はなさそうです。
なお、トマトには血圧低下やストレス緩和効果を期待できる「GABA(ギャバ)」と呼ばれる栄養成分も含まれています。このGABAの含有量を、ゲノム編集技術により通常のトマトの約5倍に増量した「シシリアンルージュハイギャバ」というトマトが売り出されています。
参考資料*¹:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」