厚生労働省が「妊産婦のための食生活指針」を改定
妊娠前から妊娠中の望ましい食事については、あふれるほど情報があります。
多くの情報のなかには、「本当かしら」と疑問に感じるものも少なくなく、そのためその情報がかえってストレス源になってしまうということもあるのではないでしょうか。
妊娠を身近なこととして考えるようになった、あるいは実際に妊娠している女性たちが、そんな情報に振り回されることのないようにと、厚生労働省は「妊産婦のための食生活指針」を提示しています。
この指針は、初版策定からすでに15年が経過しているのですが、この間には、若い女性や妊産婦を取り巻く社会情勢、および食をめぐる状況、なによりも女性たちの体格自体が大きく変化しています。
そこで、新たなエビデンス(科学的根拠)を検証して取り入れるなどの見直し作業が行われていたのですが、2021年3月には改定版が完成し、公表されています。
この改定版では、妊娠中のみならず妊娠前からの健康的なからだづくりや適切な食習慣の形成が重要であるとして、指針のタイトルも「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」*¹と改められています。
母親の食事が赤ちゃんの成長に影響するのは、胎盤が完成する妊娠5カ月(妊娠16週)頃からだから、それ以前は食事に気を使わなくいいとする説もあるようです。
しかし、妊娠を考えるようになったら、やはり母親として食べることにも気を使った方がいいというわけです。
そこで今回は、10項目からなるこの指針を紹介しておきたいと思います。
「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」10項目
改定された「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 ~妊娠前から、健康なからだづくりを~」は、次の10項目で構成されています。
妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
~妊娠前から、健康なからだづくりを~
- 妊娠前から、バランスのよい食事をしっかり摂りましょう
- 「主食」を中心に、エネルギーをしっかりと
- 不足しがちなビタミン・ミネラルを、「副菜」でたっぷりと
- 「主菜」を組み合わせてたんぱく質を十分に
- 乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを十分に
- 妊娠中の体重増加は、お母さんと赤ちゃんにとって望ましい量に
- 母乳育児も、バランスのよい食生活のなかで
- 無理なく体を動かしましょう
- たばことお酒の害から赤ちゃんをまもりましょう
- お母さんと赤ちゃんの身体と心のゆとりは、周囲のあたたかいサポートから
(引用元:厚生労働省「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」*¹)
ここでいう「主食」には、主に炭水化物の供給源となる「ごはん」「パン」「麺」「パスタ」などの穀類が該当します。
また副食(おかず)のうち「主菜」とは、主にたんぱく質の供給源である「肉類」「魚類」「卵」「大豆・大豆製品」などを主な材料とする料理を、「副菜」とは、主にビタミン、ミネラル、食物繊維の供給源となる「野菜」などの料理を指します。
妊娠中も「まごたち食」でバランスのよい食事を
このうち「1」のバランスのよい食事については、「主食・主菜・副菜がそろっていること」を目安とするようアドバイスしています。
具体的には、1日に、何を、どれだけ食べたらよいのか、その目安を示した「食事バランスガイド」および「妊産婦のための食事バランスガイド」*¹の活用をススメています。
ただ、あらかじめ栄養学を学んだ経験でもないかぎり、そう簡単にできることではありません。
その点、こちらで紹介している「まごたち食」という食事の摂り方なら、栄養素ではなく、具体的な食品で「何を食べたらいいのか」がわかりますから、1日を通して比較的簡単に必要な栄養素のすべてを過不足なく摂れるようになります。是非活用してください。
妊娠前からりんごや柑橘類の果物を多めに
「3」のビタミン・ミネラルの補給に関して是非お伝えしたいのは、妊娠中にビタミンやミネラルが豊富な緑黄色野菜や果物をしっかり食べておくと、生まれてくる子の情緒や行動面の問題を防ぐ可能性のあることが研究により確認されていることです。
ここで言う「生まれてくる子の情緒や行動面での問題」としては、「親指しゃぶり」「夜尿症(おねしょ)」、あるいは注意力や集中力に乏しく、過剰に活動的になる「注意欠陥・多動症(ADHD)」などがあげられます。
具体的な話として研究チームは、「特にりんごと柑橘類(みかんやオレンジなど)のように、あざやかな色をしていて抗酸化物質が豊富な果物がいい」としています。
特に、妊娠16週以降、および授乳期にある女性は、1日に300グラム摂取するのが望ましいとのこと。普通サイズのりんごなら1個半、みかんなら3個は食べておきたいところです。
妊娠前から大豆製品を多くして植物性たんぱく質を
「4」の主菜、いわゆるメインディッシュとして摂るたんぱく質となると、肉類や魚類を選びがちです。
ところが妊娠との関係で言えば、植物性たんぱく質の代表格である大豆やその製品を多く摂取していると、「妊娠中の脂質異常症やインスリン抵抗性、うつ症状の改善、不妊治療中の女性の妊孕性(にんようせい)の向上につながる可能性がある」ことが報告されているのです。
脂質異常症とは、血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪などが増加した状態で、心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクを高めます。
インスリン抵抗性とは、インスリンに対する感受性が低下して血糖値が下がりにくくなっている状態を指し、そのため糖尿病になりやすいとされています。
妊孕性とは、「妊娠するための力、妊娠を継続するための力」のことです。
妊娠中に体をよく動かして産後うつを防ぐ
「8」の「無理なく体を動かす」のエビデンスとしては、「妊娠中に身体活動を増やすことにより、産後うつのリスクが低下する」ことが、国立精神・神経医療研究センターなど国内6つの高度医療研究センターの共同研究で確認されています。
ここでいう身体活動の目安としては、「現状より1日10分でも多く体を動かす」こと、歩数にして1000歩でも増やすことを心がけるといいようです。
この運動効果は、産後うつのリスク低下に加え、「妊娠合併症および早産のリスクが低下し、自然分娩ができる可能性が高くなる」ことも確認されているようです。