日本で初めての便秘に関する診療ガイドライン
ひょっとしたら、あなたも長引く頑固な便秘に悩まされてはいないでしょうか。
日本人の便秘人口は、推計で1000万人を優に超えると言われています。
総人口から換算すると、少なく見積もっても成人のほぼ8人に1人が、何らかのかたちで便秘に悩まされていることになります。
これまでこの便秘については、はっきり病気とみなされてこなかったこともあり、個人個人が人知れず悩み、試行錯誤しながらその解消に取り組んできました。
連日繰り返されるテレビCMなどを頼りに、市販の下剤や漢方薬、あるいはサプリメントなどに頼らざるを得ないというのが大方の実情だったわけです。
こうした現状を何とか改善しようと、消化器内科の医師を中心とする研究グループが、長引く頑固な便秘をいかに診断し、より効果的な治療につなげていくかについて、数年にわたり検討を重ねてきました。
その結果、便秘に関しては日本初となるガイドライン『慢性便秘症診療ガイドライン』*¹がまとめられ、現在ではこのガイドラインに沿って便秘の治療が進められています。
そこで今回は、このガイドラインにおいて、医師の診察が必要とされている便秘について是非頭に入れておいていただきたいことをまとめておきたいと思います。
便秘とは便を十分量かつ快適に排出できない状態
「自分は便秘だ」と自覚している方のなかには、「いきまないと便が出ない」という方もいれば、「排便は1日1回はあるものの量が少なく、排便した後も便が残っている感じがしてすっきりしない」という方、あるいは「2日か3日に一度しか排便がない」という方もいて、便秘と自己判断している状態は実にさまざまです。
こうした状況を踏まえ、新たに作成されたガイドラインでは、「便秘」を、「本来体外に排出すべき糞便(ふんべん)を、十分量かつ快適に排出できない状態」と定義しています。
つまり、「便秘」は「症状」でもなく、かといって「病名」でもない。排便困難や残便感(ざんべんかん)が続いている状態を表す「状態名」だというわけです。
ここでいう「排便困難」とは、排便回数や排便量が少ないために便が大腸内に滞っている状態、また、「残便感」とは、直腸内にある便を快適に、つまりすっきり排出できていない状態と説明されています。
医師の診断のもとに検査・治療が必要な「便秘症」
排便困難や残便感があり、日常生活に何らかの支障が出ているような状態を、ガイドラインは「便秘症」と捉え、医師による検査、治療が必要とされる状態、と定義しています。
具体的には、以下の6項目のうち2項目以上を満たしていれば、「便秘症」と診断されるようです。
さらに6カ月以上前から以下のような症状があり、直近の3か月間に限って「便秘症」の基準を満たしているようなら、「慢性便秘症」と診断されることになります。
- 便が出にくく、強くいきむ必要がある
- 硬くてコロコロしたウサギの糞のような状態の便が出る
- 残便感(スッキリできっていない感じ)がある
- 肛門がふさがっているような感じや排便困難がある
- 用手的な排便介助*が必要である
- 下剤などを使用しない自発的な排便回数が、週に3回未満である
排便する際はいつもというわけではないものの、排便時に4回に1回以上の頻度で上記「1」~「5」の症状があり、日常生活に支障をきたしている方は、「便秘で受診するのは……」などと躊躇することなく、まずは一度、最寄りの消化器内科、あるいは内科を受診することをおススメします。
すぐに受診が必要な便秘の危険信号
「自分は便秘だ」と思い込んでいる方のなかには、最近増えている大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)*などにより、大腸内を便がスムーズに通過できないために便秘になってといったこともありまえす。
一方のクローン病は、小腸や大腸のあちこちに潰瘍ができる。
あるいは甲状腺機能低下症のような全身性の疾患により、大腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が弱くなっているために、便秘が続くこともあります。
このように別な病気があって便秘が起きているという例も珍しくありません。
「私は便秘もちだから」などと、なかばあきらめ気分で市販の下剤や民間療法に頼って便を出すことだけにエネルギーを注いでいると、便秘を引き起こしているもともとの病気を悪化させ、腸閉塞や腸管穿孔(腸に穴があくこと)とった深刻な事態を招きかねません。
便秘に伴い以下の症状が出た場合は、危険なサインと受け止め、すぐに受診することをおススメします。
- これまで便通は正常だったのに、急に便秘になった
- 強い腹痛や吐き気、発熱を伴う
- 便に血液が混ざる
便秘で受診する際に医師に伝えたいこと
これは便秘に限ったことではありませんが、何らかの体の異変を訴えて訪れた患者に医師が最初にするのは、問診(もんしん)や身体所見(しんたいしょけん)のチェックです。
診断に役立つ手がかりを得るために、現在自覚している症状やその症状の経緯、これまで経験した病気などについて詳しく話を聞いたり、全身をくまなく診察して情報収集を行い、患者が訴えている症状がどの程度危険なものなのかを見極めるわけです。
そのうえで、医師が必要と判断すれば、血液検査やエックス線造影などの画像診断を行ってより詳しく調べることになります。
いずれも医師がスムーズに的確な診断を行ううえで欠かせないものです。
このうち問診で患者から医師に伝えるべき情報として、以下については、事前にきちんと整理しておけば、より早く適正な診断、治療につながります。
- 便秘が始まったのはいつごろか
- 排便の頻度
- 便の状態(量や色、硬さ、かたちなど)
- 便秘以外に、腹痛や発熱はないか
- 肛門の違和感、異常を感じたことはないか(かゆみや痛み、出血、脱出など)
- 残便感(排便後に便がまだ残っている感じ)の有無
- 温水洗浄便座を使っているか
- 市販の下剤や浣腸を使っているか
- 治療中の病気、服用中の薬*
- 手術や放射線治療を受けたことはないか
- 利用している健康食品
- その他、思い当たること
(引用元:日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ49「便秘」*²)
なお、便秘対策の一例として、高知大学医学部の研究チームが地元の農協と共同で開発した「ゆずちゃんゼリー」が、またマグネシウムが便秘の予防に役立つという話をこちらで書いています。
参考にしてみてください。
また、便秘薬として人気の高い酸化マグネシウム製剤の副作用に関する情報をこちらにまとめてあります。
是非お役立てください。
参考資料*¹:日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断治療研究会「慢性便秘症診療ガイドライン2017」
引用・参考資料*²:日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ49「便秘」