長引く腰痛に有効と聞く「認知行動療法」とは?

腰痛体調が悪い?

ストレスが絡む慢性腰痛なら認知行動療法の検討を

つらい腰痛で悩んでいる方のなかには、
「整形外科を受診したが、医師からは、原因と考えられる骨などの異常はないと言われた」
「痛み止めなどで治療を受けているが、痛みはいっこうに治まらない」
という方が少なくないのではないでしょうか。

このような、原因がはっきりしない腰痛が、すでに3カ月以上絶えることなく続いているようなら、一般に「慢性腰痛」と診断されます。

そしてこの、原因不明の慢性腰痛には、大なり小なり人間関係や仕事上の悩みなど、いわゆる心理・社会的ストレスが関係していて、そのストレスの存在が痛みの改善を遅らせている、と考えられています。

こうした考えのもと、最近では、ストレスが影響していると判断されるような慢性腰痛の治療に、「認知行動療法」と呼ばれる精神・心理療法が取り入れられるようになってきました。

たとえば、「自分が好きなことに夢中になっている間は痛みが気にならない」という経験はないでしょうか。
これこそ、まさに認知行動療法に基づくアプローチの効果です。

今日はこの、慢性腰痛に有効とされる認知行動療法について、調べたことを書いてみたいと思います。

なお、同じ腰痛でも、急性期の、すぐに受診すべき腰痛についてはちらの記事を参照してください。

つらい腰痛、すぐに受診したほうがいいときは?
成人の5人に1人は腰痛もちだと聞く。その数を3000万人と推計する統計もあり、巷にはさまざまに情報が飛び交っている。が、なかには背景に深刻な疾患がある場合も少なくない。素人判断で痛みを緩和するだけでなく、整形外科医の診察が必要な危険信号を紹介する。
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「腰が痛いから何もできない」思いを断ち切る

慢性腰痛など、慢性の痛みの治療に心理的側面へのアプローチが有効であることを知ったのは、痛みの治療がご専門の北原雅樹医師を、当時勤務しておられた東京慈恵会医科大学附属病院のペインクリニックに取材でお尋ねした時のことです。

取材の冒頭で北原医師が、ときに立ち上がれなくなるほど頑固な腰痛に悩まされていた男性が、犬を飼い始め、その世話に夢中になっているうちに、いつの間にか腰痛が改善したという話をしてくれたのです。

腰痛の緩和と犬の世話との因果関係にもうひとつ納得できないでいる私に、北原医師はこう説明してくれました。

「楽しいことに夢中になっていると、脳の意識がその楽しいことに集中しますから、それまで脳を支配していた痛みが忘れ去られていくのです」

長引く腰痛に「腰が痛いから何もできない」と何もせずにじっとしていると、ストレスがたまり、体やこころが凝り固まって腰痛が悪化するという悪循環に陥ります。

この悪循環を断ち切る効果が、「楽しいことに夢中になって体を動かす」ことにあるというのです。

そのとき北原医師は、「認知行動療法」という言葉こそ使っていませんでした。
しかし、少し後になって、まさにこのアプローチこそ認知行動療法によるものだったと納得できたのです。

なお、現在北原医師は、横浜市立大学附属市民総合医療センター(神奈川県横浜市)のペインクリニック科で部長として診療しておられます。

考え方の癖を認知行動療法で軌道修正する

認知行動療法がうつ病やパニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、適応障害などの精神・心理療法として広く普及していることはすでにご存知でしょう。

具体的な行動を通してその人の認知、つまり現実の受けとめ方やものの見方、考え方に働きかけることによって、受け止め方や考え方の「癖」とか「こだわり」のようなものを軌道修正して、ストレスの軽減を図り、気持ちを楽にしていこうという治療的アプローチです。

長引く頑固な腰痛のつらさに悩まされ、うんざりしているあなたは、「腰痛があるから仕事に集中できない」とか、「腰痛のせいでやりたいこともできない」などと考えてはいないでしょうか。

あるいは「このつらい腰痛がなかったら、もっと楽しい人生になるのに」などと、腰痛があることを理由に、すべてをネガティブにとらえてしまっているようなことはないでしょうか。

認知行動療法で「幸せホルモン」の分泌を促す

私たちの脳にはもともと、痛みの緩和に関する情報伝達に深くかかわっている「セロトニン」という神経伝達物質を分泌する機能が備わっています。

通称「幸せホルモン」として知られるこのセロトニンは、ポジティブなことを考えると脳内に分泌されて痛みを和らげるように働いてくれます。

逆にネガティブ思考に陥っていると、幸せホルモンの分泌が滞り、腰痛が少しも改善されず、自分を苦しめているということは、よくあることです。

もしそうだとしたら、このネガティブな思考に働きかけて、そこから抜け出す手助けをしようというのが、認知行動療法と呼ばれるアプローチです。

四六時中腰痛のことばかり考えている状態から、何か別の、あなた自身が興味の持てることを、実際に体を動かしてやってみる――。

その行動を通して、考え方や受けとめ方をポジティブな方向に変えていくことで、ストレスを、そして痛みを上手にコントロールしていこうというわけです。

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認知行動療法で腰痛にこだわっている自分に気づく

認知行動療法については、精神疾患へのアプローチ法といったイメージが強いこともあり、自らの慢性腰痛の治療法として受け止め、取り入れていくことに多少の抵抗感を覚える方も少なくないと思います。

しかし、すでに身についているものの見方や現実の受けとめ方を変えるのは、そう簡単にできることではありません。簡単に変えられないからこそ、ヒトは逆に悩んだり、ストレスに感じたりするわけです。

ですから、「私はうつ病ではないからそんな治療法は……」などと敬遠したりせずに、認知行動療法を一度試してみることをオススメします。

認知行動療法をやってみて、少なくとも「今の自分はどうも腰痛にこだわりすぎているようだ」と気づくことができたら、腰痛の改善に向けた一歩を踏み出せたと考えていいようです。

慢性腰痛の生活への影響を考えてみる

認知行動療法は、まずあなた自身の認知の枠組み、つまり考え方や感じ方、受けとめ方の傾向、あるいは癖のようなものを、問診やアンケートを通して明らかにしていくことからスタートすることになります。

そこでは、「慢性腰痛が自分の日々の生活にどのような影響をもたらしているのか」を考え、そこで思いつくことを口に出してみるといいようです。

その聞き手としては、認知行動療法に精通した精神科医や心療内科医、臨床心理士、カウンセラー、精神看護専門看護師などがあげられます。

また最近では、ストレスの関与が疑われる病気や症状が多く、その人の認知の部分にかかわらないことには治療効果が期待できないといった患者が増えていることから、内科医や小児科医、麻酔科医なども認知行動療法をマスターするようになってきているようです。

慢性腰痛に認知行動療法を応用している医師はまだまだ少ないものの、痛みセンターや疼痛センター、ペインクリニックの医師を中心に、これまで以上に真剣な取り組みが進められているようです。

最寄りの痛みセンターなどについては、まずはかかりつけ医に相談するといいでしょう。

認知行動療法のトレーニング用ワークブック

慢性腰痛の対策として、本気で認知行動療法に取り組んでみたいという方のために、慢性疼痛で悩む患者向けのトレーニング用ワークブック『慢性疼痛の治療:患者さん用ワークブック-認知行動療法アプローチによる‐』(星和書店)も刊行されています。

このワークブックにある11のセッションの一つひとつを自分で学び、実行していくことにより、自らの考え方や受けとめ方の癖のようなものに気づき、考え方や物事のとらえ方を多少なりとも変えることによって、これを即痛みの治療につなげようというわけです。

この学習を積み重ねていくうちに、「すべて腰痛のため」と考えがちだった思考に少しでも変化が現れたら、慢性腰痛の改善も期待できるのではないでしょうか。

なお、同じ腰痛でも、一晩眠って朝目覚めたときに腰が痛くてなかなか起き上がれない、といつたタイプの、いわゆる「寝起きの腰痛」については、自分でできる改善策をこちらにまとめてありますので、参考にしていただけたら嬉しいです。
→ 寝起きの腰痛、自分でできる改善策は?

参考資料:国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター Webサイト