新型コロナの感染予防には「歯みがき」が重要
新型コロナウイルスの感染第8波が急拡大しています。
マスクの着用やこまめな手洗い・手指の消毒、3密(密閉、密集、密接)の回避など、感染対策の基本を今一度見直し、更なる徹底を図りたいところです。
加えて、とかく見過ごしがちですが、誰もが1日に少なくとも1回は行っている「歯みがき」などの、いわゆるオーラルケアが新型コロナウイルスの感染予防に関係しているのかどうかも気になるところです。
この点については、東京医科歯科大学歯学部附属病院の礪波健一(となみけんいち)医師が、「歯みがきなどの口腔ケアは新型コロナウイルスの感染予防に有効」として、その効果的な方法や留意点を説明しておられます。
今回はそのポイントを紹介してみたいと思います。
歯みがきを励行してウイルスの温床にさせない
礪波医師は、東京医科歯科大学のWebサイトにある「新型コロナウイルス感染症予防と歯磨き」のコーナーで、「歯みがきは新型コロナウイルス感染予防に有効ですか」という質問に、「適切な歯みがきなどの口腔ケアは新型コロナウイルスの感染予防に有効です」と答えています*¹。
その理由として、普段から歯みがきを徹底して行い、口の中の細菌の数を減らしておくことは、たまたま口腔内に侵入してきたウイルスが口腔内の細胞に付着するのを防ぐ効果が狙えるからだ、と説明しています。
口腔内を不潔なままにしていると、新型コロナウイルスのみならずあらゆる細菌やウイルスの温床(おんしょう)、つまり住処(すみか)となってしまいます。
そうならないように歯みがきを徹底して口腔内の清潔を保とう、というわけです。
では、口腔内の細菌数を極力減らして新型コロナウイルスの温床となるのを防ぐには、どのようなことに留意して歯みがきなどの口腔ケアを行えばいいのでしょうか。
感染対策としての歯みがきは1日1回就寝前に時間をかけて
「口腔内を清潔に」と言われると、とかく私たちは、起床後、三度三度の食後、就寝前と、歯みがきの回数を増やせば増やすほど、口腔内は清潔になり、感染予防により効果的なのではないか、と考えがちです。
ところが、この点について礪波医師は、一度歯みがきをして細菌の数を減らすと、もとの数まで増えるのにおおむね48時間はかかると考えられていることから、「歯みがきは回数が問題ではない」として、次のように説明しています。
「雑に何回もみがくよりは、1日に1回でも、時間をかけて歯と歯ぐきの境目あたりを中心にていねいにブラッシングし、細菌数を低い水準に抑えておく方がより効果的です」
しかもその1回の歯みがきは、「就寝前が効果的」とのこと。
その場合の歯みがきの方法*としては、歯を徹底的にブラッシングして歯垢(しこう;「プラーク」とも言う)と呼ばれる、歯の表面に付着しているネバネバした細菌の塊(かたまり)を完全に取り除くことに加え、舌の表面にある舌苔(ぜったい)を取り除くことも忘れないよう注意を促しています。
「舌みがき」で舌苔(ぜったい)を取り除くのも忘れずに
舌苔とは、口腔内の細菌や食べかす、さらには口腔粘膜の剥がれた上皮などが舌の表面、特に舌の奥の方の奥歯に近い部分に付着した状態を言います。
その状態が白っぽく苔(こけ)が生えているように見えることから、舌苔と呼ばれているようです。
簡単に言えば「舌の汚れ」で、放置していると口臭や味覚異常につながるリスクがあります。
舌はとてもデリケートな軟らかい組織です。
舌苔を取り除くときは、舌を傷つけないように、毛が少し柔らか目の歯ブラシで、舌の奥から手前へ、やさしくかきだすようにするといいようです。
舌苔の中に新型コロナウイルスが付着している可能性もあります。
舌の奥は気管から肺へとつながっていますから、舌みがきをするときは、舌の手前から奥へ、ウイルスや細菌を押し込まないように注意が必要です。
舌みがき専用の「舌ブラシ」やヘラのようなケアグッズも市販されていますが、毎日きちんと取り除いていれば、普通の歯ブラシで十分です。
歯みがきや舌みがきの際は飛沫を拡散させない
もう一点、歯みがきや舌みがきをする際に、新型コロナウイルス感染予防の観点から特に留意したいのが、ブラッシングなどをした後に吐き出す唾液の始末です。
ご承知のように、新型コロナウイルスの感染者(陽性者)が咳やくしゃみをした際に周囲に飛び散る飛沫(ひまつ)、つまり唾液やさらに細かい水滴、いわゆる「しぶき」には、ウイルスが含まれている可能性があります。
この飛沫が鼻や口から侵入してくるのを防ぐために、マスクを着用したり、飛び散ってドアの取っ手や手すりなどに付着している飛沫に触れた手を介して感染するリスク対策として、こまめな手洗いや消毒による手指衛生の徹底に努めているわけですが……。
意外と忘れているのが、洗面所などで歯みがきや舌みがき、さらにはうがいをした際に周囲に飛び散る唾液等の飛沫に対する感染対策ではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染者のなかには、無症候性感染者と呼ばれる、コロナウイルスに感染しているもののそれらしい症状がいっさい出ていない人が相当数いることがわかっています。
したがって、PCR検査などで新型コロナウイルスに感染していることが確認されているいないに関わりなく、歯みがきなどをした際に唾液に触ったその手でむやみにあちこち触らないこと、また唾液を周りに飛び散らしたままにしないことは、感染対策上特に重要です。
歯みがきなどをする洗面所の感染対策を忘れずに
この点について礪波医師は、「唾液に他の人が接触したり、飛沫を吸い込んだりしないように注意する必要がある」として、特に家庭や職場で歯磨きをする際は、以下の配慮を求めています。
- 歯磨きするタイミングをずらして3密(密集、密接、密閉)を避ける
- 洗面所等の歯磨きをする場所の換気(冬のシーズンは加湿も)をよくする
- 家族の歯ブラシをまとめて保管する際は、歯ブラシ同士が接触し合わないようにする
なお、歯磨きをし終えたら、洗面台の周辺を塩素系消毒薬(0.05%の次亜塩素酸ナトリウム)、あるいは家庭用洗剤等の界面活性剤を含ませた布などで拭いた後、水拭きしておくことをお忘れなく。
参考資料*¹:東京医科歯科大学「新型コロナウイルス感染症予防と歯磨き」