寝室の内装や建具に木材が多いと熟睡できる!?
コロナ禍により生活スタイルが一変して、あっという間に2年が過ぎてしまいました。
連日の外出自粛で、おそらくは日中の活動量が大幅に低下してしまったことも影響しているのでしょう。
「このところぐっすり眠れない」「夜中に目が覚めて、その後朝まで一睡もできない」等々……。
睡眠に悩みを抱える人が、私の周りにも目に見えて増えています。
新型コロナウイルスのリバウンド(感染再拡大)への危機感が強まるなか、ウイルスの威力に負けないためには、感染対策の徹底に加え、自らの免疫力を高めておくことが大切になってきます。
免疫力には毎日の睡眠が大きく影響しますから、まずは眠りの質を高めるような工夫が求められます。
そこで今回は、寝室に木製の家具を置いたり、ドアや窓枠、仕切りなどの建具類、さらには床や壁に木材や木質の材料が多く使われていると、木のぬくもりで精神的なやすらぎが得られ、スムーズな入眠や熟睡につながるという研究結果を紹介してみたいと思います。
寝室内に木材・木質の有無と不眠症との関係を調査
今回紹介する研究は、農林水産省の研究機関の1つである森林総合研究所*により、2020年2月18日にプレスリリースされたものです*¹。
報告によれば、働く男女を対象に睡眠に関するアンケート調査を実施したところ、自身の寝室に木材・木質の内装や家具、建具などが多いと回答した人は不眠症の疑いが少なく、寝室でやすらぎを感じている割合がより高いことが明らかになった、というのです。
睡眠の質を左右する環境要因としてよく指摘されるのは、寝室内の温度や光、音(騒音を含む)、あるいは寝具類でしょう。
ところが、木のぬくもりにフォーカスして睡眠の質との関係を調べるというユニークなこの研究は、森林総合研究所と筑波大学および帝京大学の共同研究チームにより、2016年~2017年に実施されています。
本研究に被験者として協力したのは、茨城県内と東京都内にある4つの職場で働く成人男女671名で、その内訳は、男性298名、女性373名で、年齢は22~68歳、平均年齢43.3歳です。
本調査では、自宅の家屋の住環境や自身の寝室の環境、睡眠の状態、生活習慣などについて回答を求めています。
森林や林業、木材産業に関する研究・開発を行う国の機関。
寝室に木材が多い人は不眠症の疑いが少ない
本調査の項目のなかには、「ご自身の寝室内で、木材・木質の内装や家具、建具がどの程度使われていますか」という質問が含まれています。
この質問に寄せられた回答を分析した結果、不眠症の疑いのある人の割合が、寝室に木材・木質材料が「たくさん使われている」グループでは25.3%と、「使われていない」グループの39.8%よりも14.5ポイント低いことを確認できたそうです。
本調査では、上記の質問以外に、睡眠の質に影響するとして一般に指摘されている寝酒(ねざけ;就寝前に飲酒すること)*の習慣の有無や日中の活動状況などについても質問しています。
その結果、寝酒などの生活習慣よりも「寝室に木材・木質材料がどの程度使われているか」という要因の方が睡眠状況と大きな関連が認められたとのこと――。
この結果は、研究チームにとって予想を上回るものだったようです。
寝酒については、「寝つきはよくなるものの眠りが浅くなる」という話をこちらで書いています。
寝室に木材が多いと精神的な安らぎを覚える
森林がもつストレス解消やリラックス効果は、森林浴(しんりんよく)として、また「森林の香り」などとうたった入浴剤やアロマがあることからもよく知られています。
木材に触れることや木の香りを嗅ぐことが自律神経のバランスを整え、血圧を下げたり、免疫力を活性化することを実証する研究結果も、国の内外で報告されているそうです。
こうした調査や研究結果を受けて本調査では、木材・木質空間という観点から、「寝室でやすらぎや落ち着きを感じているかどうか」についても質問しています。
その結果、寝室で精神的なやすらぎを感じていると回答した人の割合は、寝室に木材・木質材料が「たくさん使われている」グループでは86.6%で、「使われていない」グループの70.8%よりも15.8ポイント高いことが明らかになっています。
これらの研究成果から研究チームは、「寝室に木製の家具を置くなど、木材・木質材料を多く取り入れることにより、不眠症状の緩和や質の高い眠りが得られることが期待される」と結論づけています。
寝室の窓に木製ブラインドを吊るして質の高い眠りを
そこで、ではこの研究で明らかにされている成果を、不眠などで悩んでいる人が日々の生活にどのように取り入れて睡眠の質の改善につなげていくか、という話になります。
たまたま家を新築する予定があるとか、住宅の建て替えを予定しているという方は別として、マンション暮らしの方ですと、木造住宅に急遽住み替えるとか、リフォームしてドアなどの建具や内装を木質のものに変えるといったことは、あまり現実的な解決策とはいえないでしょう。
とは言え、策はいくつかあります。
たとえばベッド脇に木製のサイドテーブルを置くことだったらそう難しくはないでしょう。
あるいは、目隠し程度に部屋を仕切る 木製 パーテーションなども、最近はいろいろなサイズのものが手ごろな価格で手に入ります。
また、寝室の窓に掛けているカーテンに替えて、木製のウッド ブラインドを吊るせば、朝陽の採光の調整になり、しかも木のぬくもりで快眠も得られますから、まさに一挙両得です。
木材の何が睡眠にプラスに働くのかは今後の課題
なお、木材や木質材料の何が睡眠にプラスの影響をもたらしているのか、材料の見た目なのか、寝室内の不快な音を遮断させる吸音性なのか、木の香りなのかなどは現時点ではまだ明らかになっていません。
本研究チームは、今後これらの点を解明することで健康的な眠りに貢献していきたいと結んでいます。
眠りの良し悪しに影響を与える音、特に騒音に関しては、こちらの記事を読んでみてください。
参考資料*¹:森林総合研究所「木のぬくもりあふれる寝室でよい眠りを――木材・木質の内装や家具が多い寝室では不眠症の疑いが少ない――」