つらい腰痛、すぐに受診したほうがいい痛みは?

医師体調が悪い?
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腰痛には原因疾患を特定して治療できるものがある

日本人には腰痛もちが多く、成人の5人に1人がつらい腰痛に悩まされているようです。数にすると、2500万人を優に超えて3000万人はいるとの推計もあり、巷には「つらい腰痛はこれで治る」といった民間療法レベルの情報があふれています。

しかし、数ある腰痛のなかには、原因を特定できるものが少なからずあり、そのなかには椎間板ヘルニアのように、医師の診断のもとに治療を必要とするものが少なくありません。

「昔から腰痛もちだから」と軽く考えたり、「私の腰痛は職業病だから」などと、半ばあきらめ気分でひたすら痛みを和らげることだけに専念していると、腰痛を引き起こしているもともとの病気を悪化させることにもなりかねません。

そこで今回は、医師の診察が必要とされている腰痛について大事なことをまとめておきたいと思います。

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すぐに受診が必要な腰痛の危険信号!!

我が国の腰痛治療は、日本整形外科学会と日本腰痛学会が、初版から7年ぶりの2019年5月に改訂した、『腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版』*¹に沿って進められています。このガイドラインによれば、腰痛に伴って起きる以下のような症状は危険信号です。

  • 時間や活動性(体の動き・動作)に関係なく、じっとしていても痛む
  • 腰だけでなく、胸や背中にも痛みがある
  • 長引く腰痛でこのところ体重が減ってきている
  • 腰の痛みに加え、下肢にしびれや麻痺(まひ)がある

腰痛とともにこれらの症状があるときは、背景に「骨折」「脊椎炎(首から腰までの背骨部分に起こる炎症)」「がんの転移」など、深刻な病気が潜んでいることもあるようです。

腰痛に加えて下肢のしびれや麻痺があるとき

また、腰痛に伴って起きている下肢、特にふくらはぎのしびれや麻痺は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)という病気に見られる症状です。

このうち脊柱管狭窄症は、中高年の男性に比較的多く見られる病気です。背骨にある「脊柱管(神経や血管の通り道)」が狭くなって、その中を走っている神経や血管が圧迫されることにより、長い距離を歩いていると痛みやしびれがつらくて立ち止まってしまい、少し休まないと歩き続けられない状態になります。

病気が進行すると、立っているだけでもしびれや痛みが強く、つい腰をかがめてしまったり、椅子に腰掛けたくなるようなこともあるようです。

こうした症状が見られるようなら、まずは整形外科医の診察を受けて原因となっている病気の有無、またその病気の見極めをしてもらうことから始めることが大切です。

じっとしていても腰痛が続くとき

危険信号のなかで、「じっと安静にしていても腰が痛む」ような場合は、消化器系(胃・十二指腸潰瘍、胆石、胆のう炎、すい臓炎など)や泌尿器科系(腎盂腎炎、腎結石など)、女性なら婦人科系(子宮内膜症、子宮筋腫、子宮がんなど)の疾患が原因の場合が多いようです。

しかし、だからといっていきなり内科や泌尿器科系、あるいは婦人科を受診することはおススメできません。常日頃から頑固な腰痛に悩まされているようなら、まずは整形外科医の診察を受け、その結果から、内科医や泌尿器科医、もしくは婦人科医を紹介してもらうのが賢明でしょう。

なお、原因不明の長引く腰痛のなかには、ストレスなどの心理的要因が影響しているものもあります。この場合に有効とされる「認知行動療法(にんちこうどうりょうほう)」と呼ばれる治療法については、こちらをご覧ください。

慢性腰痛に有効と聞く「認知行動療法」とは?
原因がはっきりしないまま3カ月以上続く慢性腰痛には、人間関係や仕事上の悩みなど心理的ストレスが影響していることが少なくない。このような痛みの改善に、その人の認知に働きかける認知行動療法が有効と聞く。「痛いからできない」とエクスキューズしている方は、一読を。
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腰痛を軽く考えて受診を控えていませんか

腰痛もちの方に整形外科を受診してはどうかと促すと、たとえばこんな答えが返ってくることがあります。「画像診断とかになると厄介だから、ひとまず整骨院でマッサージでも受けてみようと思う。それでも痛みが治まらなかったら病院に行くから……」と――。

確かに、「もろもろの検査を受けなくてはならない」ことには煩わしさや抵抗を感じます。そのために受診を控えている方が少なくないようですが、それは間違いです。

これは整形外科に限ったことではありませんが、受診で訪れた患者に医師がまず行うのは、問診(もんしん)や身体症状のチェックです。診断の手掛かりを得るために、現在自覚している症状やその症状が始まったきっかけや経過、これまで経験した病気などについて詳しく話を聞いたり、全身をくまなく診察して、患者が訴えている症状が本当に危険信号かどうかを見極めるわけです。

そのうえで、医師が必要と判断すれば、血液検査、さらにはエックス検査やMRI(磁気共鳴画像法)*などの画像診断により詳しく調べることになります。

*MRI(磁気共鳴画像法)とは、大きな磁石と電波を使って血管の走行状態など、体の内部情報を画像化して映し出す検査法。ドーナツ型をした大型の磁石の中に入って検査を受けるが、他の放射線科で行われる検査と違い放射線を使わないため、被ばくの心配はない。また、造影剤を用いる必要もない。

腰痛なら、まずは整形外科を受診する

諸検査を受けてからは、医師による診断結果により変わってきます。確率はかなり低いものの、仮に腰痛を引き起こしている病気が発見され、治療のために入院や通院が必要になり、仕事に支障をきたすことになったとしても、長い一生のうちの一時期のことです。

腰痛をすっかり治して、またフル回転で仕事に取り組むことができるようになれば、「つらかったけど、治療を受けてよかった」と思える日が必ずやってくると信じたいものです。

なお、腰痛で整形外科を受診する際には、事前に以下の点を振り返り、自分なりに整理して書き留め、そのメモを持参して受診するといいでしょう。

  • いつごろから、どのように腰痛が始まったのか
  • はっきりわかるきっかけはあったのか
  • どのようなときに痛みが強まったり弱まったりするのか
  • これまでどのような腰痛対策を行ってきたのか
  • 家族に腰痛もちはいるかどうか

また、腰痛を和らげるために服用してきた鎮痛薬や使用していた腰部保護ベルト(腰痛ベルトや腰痛コルセット)、湿布剤などがあれば、受診する際に忘れずに持参し、医師の診療に役立ててもらうといいでしょう。

腰痛の原因によっては労災保険が適用になります

なお、同じ腰痛でも、以下のいずれかに該当する場合は、労災保険、正確には「労働者災害補償保険法」が適用され、保険給付を受けることができます。

  1. 仕事中の突発的な出来事により突然腰痛になった場合
  2. 突発的な出来事ではないが、仕事中に腰にかかる負担の積み重ねにより腰痛になった場合

自分の腰痛がこれらに該当するようなら、本人もしくは家族が、最寄りの都道府県労働局、労働基準監督署に申請し、認定審査を受けてみるといいでしょう。詳しくはこちらを参照してください。

「労災保険」を受けとれる人、受けとり方
会社などに雇用されている、いわゆる「労働者」は、業務中や通勤途中のケガや病気に労災保険が適用され、療養・休業などの給付金を受け取ることができる。通勤途中のアクシデントが招いた負傷や病気が労災対象になるかどうか、交通事故の場合はどうなるか、まとめてみた。

条件が合えば整骨院等で受ける施術に健康保険が使えます

腰痛についてはもう1点、是非知っておいていただきたいことがあります。街中の整骨院などを利用する方も多いと思いますが、その施術費用が健康保険の対象になることがあります。

医師の診断書があることが条件になりますが、健康保険を使うことができれば、かかる費用は健康保険の自己負担分のみの、2割か3割まで抑えられます。詳しくはこちらを。

整骨・鍼灸・マッサージに健康保険が使えるとき
街中にある整骨院などで受けるマッサージ等の施術は医学的治療ではないが、医師の同意書などがあれば、健康保険を使うことができる。施術者が国家資格の有資格者であること等々の条件もあるが、保健の対象になれば健康保険の自己負担分のみで施術を受けられるという話をまとめた。

参考資料*¹:『腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版』