友人が耳掃除をしていて聞こえにくくなった
何か考え事をしていて、ふと気づくとなんとはなしに耳かきをしていた、ということはないでしょうか。
実は私にはよくあります。綿棒が手元にないときは、人差し指を入れたり、ボールペンの先でコチョコチョやったりもしています。
かなり前になりますが、耳鼻咽喉科の医師を取材したときにその話をしたところ、「耳の中は構造が複雑なうえにとてもデリケートですから、感染でも起こしたら大変です。やめた方がいいですよ」と、やんわり注意されたことがありました。
そうアドバイスを受けたものの、「わかっちゃいるけどやめられない」心地よさが耳かきにはあります。
そのためずっとやめられずにいたのですが、最近、友人が耳掃除をしていて、突然聞こえにくくなるというトラブルを体験した話を聞き、さすがに怖くなり、悪い癖をやめる決心をしました。
そう決めるに至っては、耳あかとか耳掃除について自分なりにいろいろ調べてみましたので、その辺のことを書いておきたいと思います。
耳掃除は医学的には不必要かつ危険な行為
確かなエビデンス、つまり科学的根拠がないとなかなか納得できない性格の私としては、耳掃除は本当に危険なのかどうかを確認したいと思い、日本耳鼻咽喉科学会のホームページをのぞいてみました。
すると、「一般の皆さん」のなかの「子どもの耳・鼻・のどの病気Q&A」のコーナーに、「耳掃除はしないほうがよいのですか?」という、まさにぴったりの質問がありました。
この質問への答えのなかに、次のような一文が明記されています。
耳掃除は医学的には不必要かつ危険な行為であることを認識してください。
どうしても耳あかが気になるときは、耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。(引用元:日本耳鼻咽喉科学会ホームページ*¹)
自分で耳掃除をしなくても耳には自浄作用がある
そこには、「医学的には耳掃除が不必要」とされる理由も書いてあります。
私たちの耳の、耳あかがたまる外耳道と呼ばれる部分(耳の穴の入り口から鼓膜までの通路)には、自浄作用(じじょうさよう)と言って、たまった耳あかを自然に外へ排泄する、つまり耳の穴から外へ押し出す作用が備わっているというのです。
早い話が、耳あかは放っておいても外に出てくるということです。
そのため、健康であればたまった耳あかを自分で無理やり取り除く必要など全くないのだそうです。
むしろ耳あかには、外耳道に虫が侵入したり、細菌などが繁殖したりするのを防ぐとか、外耳道の薄い皮膚を保護する役割があるため、取り過ぎない方がいいとのこと。
耳の手入れをするとしたら、入浴後などに、シャワーや洗髪などで濡れた耳の外側を軽く拭く程度にしておくのが無難だと、そこには書いてあります。
家で、自分でする耳掃除は危険な行為
家で自分でする耳掃除が危険な行為であることは、冒頭で紹介した友人が実証してくれています。
彼女の場合、耳あかのカサカサするような音が気になり、いつもの要領で市販の綿棒を入れてみたところ、ちょっと手ごたえがあったそうです。
そこで、なんとか取り出そうと、もう少し、もう少しと挑戦しているうちに、綿棒はどんどん耳の奥深くへ入っていき、やがて耳が聞こえにくくなったとのこと。
「綿棒で鼓膜を突っついて破ってしまったのでは……」
そう思って焦った彼女は、すぐ近所の耳鼻咽喉科に駆け込んだのだそうです。
奥深く押し込んだ耳あかが詰まって聞こえなくなった
診てくれた医師は、「ああ、耳垢栓塞(じこうせんそく)、つまり耳あかが詰まって聞こえなくなったのでしょう」と言うと、すぐに耳あかを取り除いてくれたので聞こえにくさもなくなった、と彼女。
医師の説明によれば、耳あかは、よほどのことがない限り、耳の穴の入り口から1.5㎝より奥には入り込まないものだそうです。
それを無理に外にかきだそうとするあまり、逆に奥に押し込んでしまったから、その奥深く押し込んだ耳あかが耳栓のような役割をして、聞こえが悪くなったのだろう、と――。
帰り際に医師からは、自分でする耳掃除に伴うトラブル*のなかにはもっと深刻なものもあるから、耳あかが気になるときは、自分で掃除する前に受診するように注意があったそうです。
耳鼻咽喉科で受ける耳掃除には医療保険が使える
耳あかが気になったら受診するようにと言われても、耳掃除だけしてもらうために耳鼻咽喉科を受診していいのだろうかと、考えがちではないでしょうか。
そもそも耳あかは、外部から侵入したほこりやゴミと思いがちですが、そうではなく、爪が伸びるのと同じメカニズムで、鼓膜が変化したものです。
放っておいても自浄作用により、自然に外に押し出されるのですが、新陳代謝が活発で生理的に分泌が盛んだったり、アトピー性皮膚炎があるとか乾燥肌などの方は、とかく耳あかがたまりやすく、耳掃除のためだけに受診するケースも多いと聞きます。
この場合、耳あかが溜ったていどのことは病気ではないから自費診療で高くつくのではないかと心配する方もいるでしょうが、ご安心ください。
耳あかそのものや耳掃除が原因の病気もありますから、耳あかをきちんと取り除くことは、耳垢塞栓除去術(じこうせんそくじょきょじゅつ)という医療行為として認められています。
したがって、耳掃除も医療保険が適用となります。
初診料と両耳の掃除料を合わせて、3割負担の方なら1400円ほどです。
耳専用のファイバースコープ、いわゆる耳鏡カメラを使い、外耳道をモニターで観察しながら掃除をしてくれますから、痛みもなく耳あかを取り除いてもらえます。
耳あかのたまり具合や耳あかの状態によって掃除にかかる時間は違ってきます。
たとえば耳あかが固くガチガチになっているような場合は、点耳薬で耳あかを軟らかくしてから取り除くことになりますから20~30分はかかりますが、簡単なケースなら10分程度で済むようです。
くれぐれもご自分で耳掃除をしてトラブルを起こさないように、ご注意ください。
耳あかが原因で耳鳴りが続くことも
なお、高齢者に多い「耳鳴り」のなかには、耳あかがたまって外耳道をふさいでいることが原因の場合もあります。まずは、耳鼻咽喉科で調べてもらうことをおススメします。

参考資料*¹:日本耳鼻咽喉科学会ホームページ