「漢方薬だけでダイエット」は可能なの?

漢方薬食と美容
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ダイエットやメタボ予防を目的に漢方薬を飲んでいる?

テレビを見ていると、「やせる漢方」として、漢方薬とは思えないような名前の漢方薬、正確には「一般用漢方製剤(かんぽうせいざい)」のコマーシャルが頻繁に流れています。

「内臓脂肪を燃やして減らす」とか「脂質代謝を上げてメタボを防ぐ」、あるいは「おなかの脂肪を落とす」、さらには「ため込み太りを防ぐ」といったものもあります。

ダイエットに取り組んでいる女性はもとより、メタボ気味の体型を気にする男性にとっては、いずれも実に魅力的なキャッチコピーで、これらのコピーに惹かれ、その類の漢方薬を飲み続けている方が少なくないようです。

なにしろ漢方薬には、「西洋医学で使われている薬に比べ、副作用がほとんどなくて安全で、安心して飲むことができる」というイメージが根強くあります。

しかも、「やせる」をアピールする漢方薬は、インターネットでもドラッグストアなどでも、医師の処方箋なしで簡単に手に入りますから、ダイエット目的で飲み続ける人は増える一方と聞きます。

ところが、東洋医学がご専門で漢方専門医の吉永亮(よしなが・りょう)医師(麻生飯塚病院東洋医学センター・福岡県飯塚市)は、「漢方薬にも副作用がある」、「特に長期間にわたって服用するときは、副作用に十分配慮する必要がある」と警告しています*¹。

そこで今回は、その辺の話を中心に、漢方薬との上手な付き合い方について書いておきたいと思います。

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漢方薬(漢方製剤)には医療用と一般用とがある

まずはちょっと漢方薬の基本的なことから――。

通常私たちが「漢方薬」と呼んでいる薬は、基本的には2種類以上の「生薬(しょうやく)」*という有効成分を組み合わせて作られている製剤です。そのため漢方薬は、「漢方製剤(かんぽうせいざい)」というのが正式な名称です。

この漢方製剤には、医師が患者を診察したうえで処方する「医療用漢方製剤」と、医師が発行する処方箋がなくても街の薬局などで簡単に手に入る「一般用漢方製剤」の2種類があります。

ここでは後者の「一般用漢方製剤」を中心に、「漢方薬」という表記で書いていきます。

*生薬(しょうやく)とは、植物の葉や茎、根や動物、あるいは鉱物のなかで薬効があるとされる部分を乾燥や蒸すなど簡単な加工を加え、医薬品として用いるものをいう。

ダイエット目的で飲む漢方薬にも副作用がある

漢方薬には「副作用がなくて安心」というイメージが強くあります。

ところが、たとえばオリンピック・パラリンピックに関連して言えば、国際オリンピック委員会(IOC)がドーピング違反に該当するとして使用を禁止している薬物のリストには、多くの漢方薬が名を連ねています。

一例を挙げると、「ちょっと風邪気味だから飲んでおこう」などと、普段気軽に服用している「葛根湯(かっこんとう)」が、禁止薬物になっていて、ちょっと驚きます。

葛根湯には「麻黄(まおう)」という生薬が含まれています。この麻黄に、交感神経賦活作用(こうかんしんけいふかつさよう)と言って、交感神経を興奮させる、いわゆるエフェドリン作用があり、これがドーピング違反につながるからだそうです。

麻黄にはこの他にも、胃の不快感や動悸、不眠といった交感神経症状を招くリスク、さらに狭心症や心筋梗塞などの心疾患を持つ方の場合は、狭心症様発作を誘発するなどの副作用があることが指摘されています。

漢方薬を服用する際には、「漢方薬だから」と安心してしまわずに、まずは「漢方薬にも副作用がある」ことを認識しておく必要があるということです。

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ダイエット目的の漢方薬に含まれる副作用に注意すべき成分

そこで、そもそもの関心事である「やせる漢方薬」です。

ダイエットやメタボ予防の目的で使われる漢方薬には何種類かあります。そのなかで、最もよく利用されているのは、主に肥満症の改善を目的に用いられる「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」です。

防風通聖散は18種類の生薬からなる漢方薬ですが、そのなかには、葛根湯に含まれる「麻黄(まおう)」をはじめとして「大黄(だいおう)」「山梔子(さんしし)といった副作用に注意すべき生薬が多数含まれています。

副作用として腹痛や下痢の症状も

これらのうち、たとえば大黄は、緩下(かんげ)作用を有する生薬です。下剤として古くからよく使われているのですが、効きすぎると下痢になります。

また、母乳移行性があるため、授乳中の女性が大黄を含む漢方薬を服用すると、母乳を通じて作用が伝わり、乳児が下痢をする可能性があることがわかっています。

山梔子とは、クチナシの果実ですが、山梔子を含む製剤には、「腸間膜静脈硬化症(ちょうかんまくじょうみゃくこうかしょう)」といって、腸の周囲の静脈に石灰化を引き起こし、腹痛や下痢を招く可能性のあることがわかっています。

そのため厚生労働省は2018年2月、山梔子を含む漢方薬を長期間投与する場合は、「定期的にCT検査や大腸内視鏡検査などを行うことが望ましい」として、医療者サイドに注意を促しています。

同時に、山梔子を含む一般用漢方製剤にも添付文書に同様の注意を明記し、長期連用する場合は医師や薬剤師などに相談することを促しています。

漢方薬を飲み続けるときは特に副作用に注意を

漢方薬の副作用については、短期間だけ服用する場合には、大きな問題になることは少ないとされています。

しかし、ダイエットやメタボ予防を目的に防風通聖散を服用するとなると、服用期間はどうしても長くなりますから、副作用にはことのほか注意が必要です。

吉永医師のもとには、「おなかの脂肪が気になるから、テレビで見たあの漢方薬がほしい」と防風通聖散を希望する患者が訪れることがあるそうです。

その際は、漢方薬というのは安易に内服する薬ではなく、食養生(しょくようじょう)も含む漢方治療のなかの一つとして漢方薬を使用することを説明するそうです。

漢方医学では、患者ひとり一人の体質や体力の程度、ライフスタイルなどさまざまな要素から健康状態を「証(しょう)」として総合的にとらえ、そのうえで必要な医療用漢方製剤を処方します。そのため、同じ症状であっても「証」が違えば処方内容も変わってきます。

そもそも防風通聖散という漢方薬の適応、つまり効果をもたらすとされているのは、「がっちりとした体格」「太鼓腹で暑がりの人」であり、日本人女性の場合は適応となることは少ないそうです。

ダイエット漢方薬を飲む前に「漢方専門医」に相談を

すでにおわかりのように、漢方薬を飲むだけでダイエットやメタボ予防に取り組んでも、得られる効果にはおのずと限界があります。また、漢方薬の服用が長期化すれば、何らかの副作用は避けられないでしょう。

吉永医師が指摘されているように、食養生、西洋医学で言うところの食事療法や運動療法などと併行してこそ、漢方薬の効果が生きるということなんだろうと思います。

ということで、ダイエットやメタボ予防が目的の場合は言うまでもなく、その他の理由でも漢方薬を使ってみたいというときは、漢方医学に精通した医師に相談してみることです。

この医師については、日本東洋医学会が臨床経験や研修期間、認定試験の結果などから「東洋医学について専門的見識がある」と認めた医師に、「学会認定専門医」(5年ごとに更新)の呼称を与えています。

この専門医、通称「漢方専門医」の所在を知りたい方は、日本東洋医学会のWebサイト*²で検索できるようになっていますから、利用してみてはいかがでしょうか。

なお、ダイエットやメタボ予防に関連してこんな記事も書いていますので、読んでみてください。

→ 減食ダイエットを続けていると骨がボロボロに

→ 食べてやせるダイエットに「乾物」の活用を‼

→ メタボ予防にいい運動はジョギングか筋トレか

→ 太りにくい主食「レジスタントスターチ」って?

→ 血糖値は街の薬局でもすぐチェックできます

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参考資料*¹:副作用に注意すべき❝イエロー❞の生薬(日経メディカル2021/01/07)

参考資料*²:日本東洋医学会「漢方専門医検索