禁煙治療に保険と自治体の助成制度を活用する

禁煙保険の話
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禁煙治療は医療のサポートを受けながら医療保険で

わが国では、このところ減少傾向にあるとはいえ、成人の喫煙率、つまり習慣的に喫煙している人の割合は、男性25.4%、女性7.7%(2022年厚生労働省の調査による)で、依然として喫煙大国です。喫煙による健康被害については、今や医学的にも明らかにされ、その科学的根拠についてもさまざまなかたちで、盛んに語られるようになっています。

にもかわらず、依然として喫煙し続けている方、あるいは一度は禁煙に挑戦したものの途中で挫折して喫煙を再度続けている方がまだまだ多く、受動喫煙がなくならないのは残念です。

たばこのニコチンに「やめたくてもやめられない」依存性が

たばこに含まれるニコチンには、「依存」という問題が伴います。依存とは、ひと言で言えば「やめたくても、やめられない」ことですから、自力だけで禁煙しようとしても残念ながら途中で挫折しがちです。

幸いなことに私たちの国では、2006年4月より一定の条件を満たしさえすれば、公的医療保険を使って医療のサポートを受けながら禁煙治療を受けることができるようになっています。さらに2020年4月からは、12週間に5回行われる禁煙治療のうち初回と最終回は医師との対面治療ですが、それ以外の回は、スマートフォンなどによるオンラインでも受けることができるようになっています。

また、禁煙治療費の自己負担分を助成(補助)して、経済面から禁煙を応援する自治体も増えつつあります。

そこで今回は、医療保険で禁煙治療を受ける際に求められる条件についてまとめるとともに、その禁煙治療を受けられる医療機関や禁煙治療費の助成制度のある自治体を紹介しておきたいと思います。

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禁煙治療を医療保険で受けるための4条件

医療保険で禁煙治療を受けるためには、以下に示す4条件のすべてに該当し、担当医がニコチン依存症の管理が必要であると認めることが絶対条件となります。

  1. 10問から成る「ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)」の得点が5点以上
  2. 35歳以上で、ブリクマン指数(1日の平均喫煙本数×喫煙年数)が200以上
  3. 直ちに禁煙することを希望している
  4. 「禁煙治療のための標準手順書」*¹に則った禁煙治療について担当医から説明を受け、その内容を理解し、納得したうえで、禁煙治療を受けることを文書で同意している

以上の4条件をすべてクリアすれば、12週間の治療スケジュールのうち計5回行われる禁煙治療に、医療保険の「ニコチン依存管理料」が適用されることになり、医療保険(組合管掌健康保険、全国健康保険協会管掌健康保険、船員保険、各種共済組合管掌健康保険、国民健康保険等)で禁煙治療を受けることができます。

保険適用になった場合の自己負担額は、治療に使用するニコチンパッチなどの禁煙補助剤の種類や使用量などにより多少異なりますが、医療保険の自己負担が3割の方では、13,000~20,000円ほどになります*。ちなみに、保険適用から外れて全額自己負担となると、おおむねその3倍強の60,000円ほどになります。

*禁煙治療費については、治療の途中で挫折してしまう人を極力減らす狙いもあり、初回から5回までの医療費(自己負担分)を最初の回に一括して支払うと、1~5回分を個別に支払うよりも若干安くなる仕組みが、2020年4月から新たに導入されている。

ニコチン依存症を判定するスクリーニングテスト

禁煙治療に医療保険が適用される条件の1にある「ニコチンスクリーニングテスト(TDS)」は、以下の10項目の質問に「はい」「いいえ」で答えていく検査です。

全問答え終えたうえで、「はい」は1点、「いいえ」は0点、質問に対する答えが「はい」でも「いいえ」でもない場合を0点としてカウントし、合計点(「TDSスコア」と言います)が5点以上であれば、「ニコチン依存症」と判定されます。受診する前に、一度挑戦してみてはいかがでしょうか。

  1. 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くたばこを吸ってしまったことがありましたか
  2. 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか
  3. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、たばこがほしくてたまらなくなることがありましたか
  4. 禁煙したり本数を減らしたときに、次のどれかがありましたか(イライラ、神経質、落ち着かない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重の増加)
  5. 上記の質問でうかがった症状を消すために、またたばこを吸い始めることがありましたか
  6. 重い病気にかかったときに、たばこはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか
  7. たばこのために健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか
  8. たばこのために自分に精神的問題(いわゆる禁断症状ではなく、喫煙することによって神経質になったり不安や抑うつなどの症状が出ている状態)が起きているとわかっていても、また吸うことがありましたか
  9. 自分はたばこに依存していると感じることがありましたか
  10. たばこが吸えないような仕事やつきあいは避けることが何度かありましたか
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喫煙による健康リスクを示すブリクマン指数

医療保険適用条件「2」のブリクマン指数とは、喫煙による健康リスク、つまり喫煙が喫煙者自身の健康に与える影響を調べるための指数です。

たばこには、ニコチン、一酸化炭素、タールなど、発がん物質を含む有害物質が200種類以上も含まれています。「1日に吸うたばこの平均本数×喫煙していた年数」で割り出されるブリクマン指数が高くなるほど、これらの有害物質による健康被害のリスクは高まると考えられています。

ただし、たばこの種類が違えば、有害物質の含有量も微妙に違ってきますし、たばこの吸い方によっても、1本の喫煙が体に与える影響も異なります。したがって、ブリクマン指数だけで健康リスクを正確に把握することはできませんが、一般の目安としては、次のように考えられています。

  • ブリクマン指数が400を超えると、肺がんの発症リスクが高くなる
  • ブリクマン指数が600を超えると、肺がんに加え肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症リスクが高くなる
  • ブリクマン指数が1200を超えると、肺がん、慢性閉塞性肺疾患に加え喉頭がんの発症リスクも高くなる

加熱式たばこの禁煙治療も医療保険で受けられる

ごく最近までは、決められた4条件を満たすことを前提に、医療保険で禁煙治療を受けることができるのは、紙巻きたばこに限られていましたが、2020年4月からは、いわゆる「新型たばこ」の一つである「加熱式たばこ」の禁煙治療にも、医療保険が使えるようになっています。

加熱式たばことは、電気式の専用器具を使って葉たばこを加熱し、発生するエアロゾル(蒸気)を吸引するタイプのたばこです。この加熱式たばこには、紙巻きたばこ同様、ニコチンやさまざまな有害物質を含む製品があり、加熱式たばこの愛用者にもニコチン依存症の管理が必要な喫煙者がいるとの判断から、新たに医療保険が適用になったようです。

なお、新型たばこにはもう一つ、「電子たばこ」があり、こちらは、ある種の液体(リキッド)を加熱してエアロゾルを発生させ、それを吸引します。このとき使うリキッドには、ニコチンを含むものと含まないものとがあります。海外ではニコチン入りのリキッドが販売されていますが、日本では医薬品医療機器法により、ニコチン入りリキッドの販売は禁止されているため、その禁煙治療は医療保険の適用外となっています。

禁煙治療に医療保険が使える医療機関

日本禁煙学会によれば、禁煙治療に医療保険が使える医療機関は、2023年12月29日現在、16,799機関で、全国の医科医療施設に占める割合はおよそ14.8%と、まだ2割に届いていないのが実情です。

医療機関のなかには、遠隔禁煙診療を行っている施設もあります。また、完全予約制をとっているところもありますから、受診前に電話ないしメールで確認するようにしてください。禁煙治療に医療保険が使える最寄りの禁煙外来・禁煙クリニックの一覧*²は、日本禁煙学会のWebサイトで見ることができます。

禁煙治療費の自己負担分を助成する自治体も

日本禁煙学会のこのサイトでは、東京都港区、大阪府大東市、静岡県三島市など禁煙外来で受ける禁煙治療費の自己負担分を助成(補助)する制度を設けている自治体*³もチェックできます。助成額は自治体によって異なりますが、自己負担分の半額、あるいは上限1~2万円のところが多いようです。

喫煙者と同居している家族、特に妊娠中の方や幼い子どもたちを受動喫煙から守るのが主な目的で、この助成を受けるには、禁煙治療を開始する前の申請手続きが必要です。お住まいの役所の医療保険課や健康増進課など問い合わせてみてください。

参考資料*¹:禁煙治療のための標準手順書第8.1版

参考資料*²:日本禁煙学会「全国禁煙外来・禁煙クリニック一覧」

参考資料*³:日本禁煙学会「禁煙外来治療費助成の自治体」