段差解消などの住宅改修に介護保険を活用する

車椅子 保険の話
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介護保険サービスにある「住宅改修給付」

懇意にしていただいている80代の女性は、昨年の暮れ、雪道で転倒して歩行の要となる大腿骨を骨折。以来、車椅子の生活を送っています。この先輩から、先日、次のようなお尋ねの電話が入りました。

「車椅子で移動しやすいように家の中をバリアフリーに改修することを考えているのですが、介護保険で改修費を補助してもらえるというのは本当かしら?」

これに私は、こう即答しました。「いくつか条件はありますが、先輩は介護保険の要介護者として認定を受けていますから、かかった改修費の9割ほどは支援してもらえるはずです」

最近は、人生の最終段階を住み慣れたわが家で家族と一緒に過ごし、そのまま自分らしい最期を迎えたいと希望する方が増えています。その準備として、たとえば歩行能力の低下による転倒を防ぐために、あるいは先輩のように車いす生活になっても同居する家族に手を煩わせたくないからと、敷居の段差を取り除いたり、階段に手すりを取り付けるなど、住宅の改修を決断するケースが増えてきたと聞きます。

先輩からお尋ねを受けたのを機に、公的介護保険サービスの一つである住宅改修給付について、少し具体的にまとめておきたいと思います。

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「住宅改修給付」サービスを受けられる条件と給付額

介護保険制度に用意されている「住宅改修給付」とは、自宅で療養生活を送る方が、住み慣れたわが家で日々安全に生活していけるように、住宅をバリアフリー化(「介護リフォーム」とも呼んでいます)するのにかかる費用の一部を補助するサービスです。

「住宅改修給付」サービスを利用できるのは?

この給付サービスを受けることができるのは、以下の3条件を満たす要支援者あるいは要介護者です。

  1. 介護保険の要介護認定で「要支援1か2」または「要介護1~5」の認定を受けている
  2. 改修する住宅に要介護者あるいは要支援者自身が住んでいる
  3. 改修する住宅が自分の家である(一時的に家族の家に身を寄せているような場合は、給付サービスの対象から外れる)

対象となるのは概ね65歳以上の高齢者です。ただ例外として、40~64歳の方でも脳血管疾患(脳卒中)や初老期における認知症、関節リウマチなど、国が定めた16の特定疾患で介護や支援が必要とされる状態となり、「要支援」や「要介護」の認定を受けているときは、このサービスを利用することができます。この場合の「16の特定疾患」については、こちらを参照してください。

40歳になったら公的介護保険料が徴収されます
高齢者介護を家族だけに託すことなく社会全体で支えていこうと誕生した公的介護保険制度。40歳になると自動的に介護保険に加入して被保険者となり、介護保険料の支払いが求められる。その仕組みと、40~64歳でも介護サービスを利用できる場合があるという話を。

「住宅改修給付」サービスで受けとれる金額は?

住宅改修給付サービスの対象として認められると、給付限度額(20万円)の範囲内で、住宅改修にかかった費用の9割、あるいは所得に応じて8割ないし7割が支給されます。つまり、介護保険の利用者負担割合が1割の方は最高18万円まで、2割の方は16万円まで、3割の方は14万円まで受けとることができます。

ただしこのサービス給付は、償還払い(しょうかんばらい)と言って、後払い制です。したがって、給付サービスを利用した被保険者(要支援者・要介護者本人)が改修費用をいったん全額自己負担で業者サイドに支払い、後日給付分の払い戻しを受けることになります。

なお、住宅改修給付サービスを利用できるのは、原則一人につき一生に一度と定められています。ただし、限度額である20万円の範囲内であれば、複数回に分割して利用することも可能ですから、担当のケアマネジャーなどに相談してみるといいでしょう。

「住宅改修給付」の対象は手すりの取り付けや段差の解消

在宅で療養生活を続ける要介護者や要支援者が、転倒予防など「自らの安全のため」であることを理由に住宅改修を行っても、そのすべてが給付サービスの対象として認められるわけではありません。介護保険制度では、給付サービスの対象となる住宅改修を次の6種類に限定しています。

  1. 手すりの取り付け
    廊下・便所・浴室・玄関などでの転倒予防や移動しやすさの向上、もしくはベッドから車いす・車いすからベッドへの移乗動作を助けることを目的として取り付ける場合で、手すりの形状としては、二段式、縦付け、横付けなどが適切なものとされている。ただし、福祉用具貸与に該当する手すりや紙巻き器付き棚手すりなどは対象外となる。
  2. 段差の解消
    居室・廊下・浴室・玄関などにある段差、玄関から道路までの通路にある段差や傾斜を解消する工事。
    具体的には、敷居を低くする・スロープを設置する、浴室の床のカサ上げをする工事など。ただし、福祉用具貸与に該当する浴室用すのこ、浴槽用すのこ、踏み台などは対象外となる。
  3. 滑りの防止及び移動を円滑化するために行う床または道路の材料の変更
    畳敷きをフローリングやビニール床材に変更したり、浴室の床材を滑りにくいものに替えるなど。ただし、ベッドを置くために畳をフローリングに変更したいという場合は対象外となる。
  4. 引き戸等への扉の取り替え
    開き戸を引き戸や折り戸、アコーディオンカーテンなどに取り替える。あるいはドアノブや戸車(扉についている車輪)だけの変更も認められる。
  5. 洋式便器等への便器の取り替え
    和式便器からから洋式便器への取り換え、また立ち坐りの負担軽減のために現在使用している洋式トイレをより立ち上がりしやすい洋式トイレに取り替える場合も認められる。ただし、水洗化やウォシュレットへの変更などは対象外となる。
  6. その他、上記1~5の住宅改修に付帯する工事
    手すり取り付けのための壁の下地補強、浴室の床段差解消に伴う給排水設備工事、床材変更のための下地の補強工事など。

住宅改修給付の申請手続きはケアマネジャーに相談を

介護保険の住宅改修給付サービスを利用するには、やむをえない事情がある場合を除き、事前に申請手続きを行う必要があります。この申請手続きには、最低でも以下の書類が必要で、少々厄介です。

  1. 住宅改修が必要な理由を記載した書類
  2. リフォーム業者等の工事施工業者による改修工事費の見積書
  3. 住宅改修後の完成予定の状態がわかるもの(写真または簡単な図を用いる)

そこで、住宅の改修を思いついた段階で、担当のケアマネジャーや訪問看護師、あるいは市区町村の介護保険窓口や地域包括支援センターに問い合わせて、申請に必要な手続きを支援してもらうといいでしょう。

改修工事完了後も、住宅改修に要した費用の領収書や工事費内訳書、住宅改修の完成後の状態を確認できる書類の提出などの手続きが必要となります。こちらも、ケアマネジャー等に支援を求めることをおススメします。

なお、入院中から退院後に備えて自宅の住宅改修を考えたいという場合は、退院支援を担当している看護師やメディカルソーシャルワーカー(MSW)などに問い合わせてみてください。

参考資料:厚生労働省「介護保険による住宅改修」