「傷病手当金」は病気やケガで休んだ時の収入を補償
病気になったりケガをしたりしたときは、治療を優先させることが大切ですが、単身者なら自らの生活を、家族のいる方なら家族の日々の暮らしを考えることも大切でしょう。
病気やケガの種類や程度によっては、治療が長引いて仕事を長期間にわたって休むことになり、収入が途絶える可能性も考えられます。
こうしたリスクに備えて、民間の保険会社が提供している「就業不能保険」に加入しておくのはどうだろうか、といった話をこちらの記事で紹介しました。

この記事のなかで、公的医療保険制度にも、保険加入者が病気やケガで休んだときには「傷病手当金(しょうびょうてあてきん)」を受け取ることができる制度があるという話を、簡単に説明しています。
これを読んでくれたという友人から、ご主人が病気の治療のために休職することになり、「傷病手当金について詳しいことを知りたい」というメールが届きました。
そこで今回は、友人からの要望に応え、傷病手当金について、以下の3点を中心にまとめておきたいと思います。
- 傷病手当金を受け取るための条件
- 傷病手当金として支払われる額はどのくらいになるのか
- 傷病手当金はどのくらいの期間受け取れることができるのか
傷病手当金を受け取ることができるのは?
傷病手当金とは、公的医療保険のうち健康保険(組合健保、協会けんぽ、各種共済組合)に加入している現役の会社員や公務員が、業務以外の理由による病気や療養のために休業、つまり会社を休んだりして十分な給料を受け取ることができない場合に、本人と家族の生活を保障するために設けられている公的制度です。
同じ公的医療保険でも、国民健康保険に加入している医師や弁護士などの自営業者、フリーランス、農業従事者、専業主婦、退職者を含む無職の方、および健康保険の扶養家族になっているパート勤めの方は、この傷病手当金の対象から外れます*。
傷病手当金は、病気やケガで会社を休み、十分な報酬が受けられない場合などの個人やその家族の生活を保障するするために支給されます。
ただし、病気やケガで休んだからと言って、無条件で受け取れるわけではありません。
傷病手当金を受け取るには下記の条件を満たす必要があります。
- 仕事以外の理由による病気やケガで仕事を休んでいること
業務中など、仕事が原因による病気やケガによる休業の場合は労働災害保険の対象となる - 4日以上連続して仕事を休んでいて給料が支払われていない
連続して3日間仕事を休み、さらに4日目以降も仕事を休むというのが給付を受ける条件。
この条件を満たしていれば、初日からの3日間は待期期間となり、4日目から支払われる - 待期期間の3日間を有給休暇とするのも可
この場合も4日目から支給の対象となる - 美容整形手術など、病気とみなされず健康保険適用外の治療のための療養等は除外される
傷病手当金はいくら受け取れる? その期間は?
傷病手当金は、通常は直近12カ月の「標準報酬日額」の3分の2に相当する額が支払われます。
自分の「標準報酬日額」は、ねんきん定期便*の「オモテ面」に記載されている「標準報酬月額(千円)÷30」で割り出すことができます。
この標準報酬には基本給のほか、役付手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当なども含まれています。
幸い、支払われる傷病手当金には所得税や住民税はかかりません。
しかし、傷病手当金が支払われている間も健康保険には加入しているわけですから、毎月の健康保険料は、休職に入る前の給与ランクに応じて支払うことになります。
「ねんきんネット」のユーザーIDを取得していれば、インターネットでダウンロードして自分の年金記録をチェックすることも可能。
傷病手当金の支給期間は通算して1年6カ月
傷病手当金を受け取ることができるのは、休職に入った4日目、つまり傷病手当金の支給がスタートした日から、通算して1年6カ月です。
通算してですから、この1年6カ月の間に、仮に何日か出社して仕事に就いたとしても、その日数だけ期間が延長されて支給されることになります。
支給期間中(1年6カ月の間)に退職した場合でも、要件を満たしていれば、退職後も残りの期間分の傷病手当金を受け取ることができます。
支給期間を過ぎて無事職場に復帰したものの、しばらくしてまた別の病気、例えば交通事故で再び治療のために休職するような事態に陥ることがないとは言えません。
このような場合は、前回の支給期間とは関係なく、新たな傷病手当金の期間がスタートすることになり、改めて通算して1年6か月間支給を受けることができます。
傷病手当金についてより具体的に知りたいという方は、加入している健康保険の運営主体である「保険者」の相談窓口、あるいは病気やケガの治療を受けている医療機関の医療ソーシャルワーカー(通称「MSW」)などに相談するといいでしょう。
ご自分が加入している健康保険の保険者は、お持ちの健康保険証を見れば、下の方に「〇〇健康保険組合」あるいは「全国健康保険協会〇〇支部」などと明記されていますから、すぐにわかります。
傷病手当支給期間後に障害が残るとき
1年6カ月を過ぎても、心身になんらかの障害が残るとか、引き続き人工透析などの治療が必要で仕事に復帰するのは難しいと判断されることもあるでしょう。
そのようなときは「障害年金」の受給対象になる場合があります。
この障害年金は健康保険から支払われるものではなく、国民年金や厚生年金の保障制度ですから、受給のための手続きがまるで違ってきます。
傷病手当金の原因となった病気やケガについて、担当医から「将来障害が残り、就労に支障をきたす可能性がある」などと説明があった場合は、早めに通院あるいは入院中の医療機関の医療ソーシャルワーカーに相談することをおススメします。
仕事中や通院途上の負傷や病気なら「労災保険給付」が受けられる
なお、病気やケガのために休職を余儀なくされ、毎月の給料を受け取れない状態に陥る原因が、仕事中の事故や通勤途上で負傷したり病気に罹るということもありえます。
この場合は傷病手当金ではなく、「労災保険」から「労災補償」のかたちで給付金を受けることができます。
この労災保険の給付金については、こちらの記事で詳しく紹介しています。

妊娠・出産時に受け取れる「出産手当金」
また、健康保険に加入している女性が出産のために仕事を休み給料が支払われないときの生活保障としては、
「出産手当金」を受けとることができます。
この手当金については、こちらの記事で詳しく紹介していますので参考にしていただけたら嬉しいです。

医療費の自己負担が高額になったときの「高額療養費制度」
基本的なことですが、医療費の自己負担(1~3割)が既定の限度額を超えた場合は、「高額療養費制度」を利用すれば、一定額以上を超えるぶんは払い戻しを受けることができます。
この制度を利用するには、自ら申請する必要があります。詳しくはこちらを読んでみてください。

参考資料:厚生労働省「傷病手当金について」