免疫力を高めるには、ただ笑えばいいという話ではない
免疫力が、コロナのような感染症は言うまでもなく、がんを含むあらゆる病気の予防や治療、そして回復していくプロセスにおいて大きなチカラとなっていることはご承知でしょう。
この免疫力は、もともと私たちの体に備わっているものですが、過度のストレスや生活リズムの乱れなどの影響を受けやすく、油断しているとすぐに弱まってしまいます。
一方で免疫力については、食事や睡眠などにより、また「笑うこと」によってもその力を高める効果を期待できることが、これまで国の内外で行われたいくつもの研究で確認されています。
しかも、「笑う」といっても、ただ笑えばいいという話ではないこともわかってきていますので、今日はそのへんの話を書いてみたいと思います。
「笑いの効用」をがん患者を対象にした実験で確認
「笑い」の健康への効用が注目を集めるようになったきっかけは、1960年代前半までさかのぼります。
不治に近いとされる難病で、回復する可能性は500分の1と医師から宣告されたアメリカのジャーナリストで作家のノーマン・カズンズ氏が、「笑い」を闘病の柱にして難病を克服した体験を書籍*にまとめ、治癒力としての「笑いの効用」を広く社会にアピールしたことが始まりでした。
その後、そして現在も、アメリカを中心に、カズンズ氏が指摘した治癒力としての「笑いの効用」について、引き続き研究が続けられています。
日本でも、新しいところでは、1997年に大阪国際がんセンターの研究チーム(代表:宮代薫・同センター がん対策センター所長)が、がん患者等に漫才や落語を鑑賞してもらい、その前後で血液を採取して、自然免疫*の主力を担うNK細胞の血中濃度の変化を調べる研究を行っています。
その結果として、2018年5月には、この研究に参加したがん患者等の7割以上において、漫才などで大笑いした後にNK細胞の血中濃度が上昇して免疫力が向上すると同時に、緊張や疲労状態の改善も確認できたことが報告されています。
患者のなかには、NK細胞の血中濃度が、大笑いする前の1.3倍に増えた人もいたということでした。
なお、研究チームはその後も、お笑いの舞台を1回限りではなく、定期的に反復して鑑賞して笑ってもらうことで得られる「笑いの効用」を調べるなど、興味深い研究を続けています。
研究方法や経過などに関心のある方は、大阪国際がんセンターのWebサイト*¹で紹介されていますのでチェックしてみてください。
これに対し、自然免疫により病原体などさまざまな外敵と闘うなかで、敵の情報を読みとり、記憶して抗体をつくり、同じ敵が再度侵入してきても直ちに無力化する免疫機能を、獲得免疫という。
免疫の要として機能しているNK細胞
先の実証実験で指標とされた「NK細胞」、つまりナチュラルキラー細胞は、リンパ球の一種で、自然免疫の最前線で外敵から身を守る防御の要としての役割を担っています。
ナチュラルキラーの文字どおり「キラー(殺し屋)」のNK細胞は、常に体内を循環しながらパトロールをしています。パトロール中にがん細胞やウイルスなどの外敵を見つけると、直ちに無差別に敵を攻撃して排除する役割を担っているのです。
大変頼もしい存在なのですが、このNK細胞にも弱点があります。
過度のストレスや睡眠の質の低下、食事内容の変化による栄養の偏りなどにより自律神経のバランスが崩れて交感神経が優位になると、NK細胞はその変化を敏感に感じ取り、すぐに活性(働き)が低下して、外敵への攻撃力が落ちてしまうのです。
「笑い」による自律神経のバランスと免疫力
そうならないように、NK細胞が外敵に対する殺し屋としての力を存分に発揮できる状態を維持するには、自律神経の交感神経と副交感神経がバランスよく働けるようにしておけばいいわけです。
どちらかといえば、休息や睡眠をつかさどっている副交感神経が優位になったほうが、免疫力の強化につながると考えられています。
そのためには、過度なストレスを避けるとともに、規則正しい生活をして質のよい睡眠を確保し、栄養バランスのよい食事を心がけることが必要でしょう。
加えて、落ち込んだりイライラして自律神経のバランスがくずれ、交感神経が優位にならないように、「笑いのある生活」で気持ちをリラックスさせることが大切になってくるというわけです。
横隔膜が動く笑いが免疫力を強化する
そこで、その「笑い方」ですが、結論から言ってしまえば、「胸腔」と「腹腔」を仕切っている「横隔膜(おうかくまく)」と呼ばれる薄い膜のような筋肉がしっかり動くような笑い方が理想です。
クスクス笑ったり、微笑む程度では横隔膜は動いてくれませんから、副交感神経は優位になりません。
もともと横隔膜は、息を吸ったり吐いたりして肺を広げたり縮めたりすることにより、肺の中で酸素と二酸化炭素の交換をしていくうえで、最も重要な働きをしている筋肉です。
たとえば抱腹絶倒(ほうふくぜっとう)、つまり「腹を抱えて大笑いをする」という言葉からイメージできるような、横隔膜がしっかり動く笑いなら、呼吸は自ずと深くなりますから副交感神経が優位になり、NK細胞の働きか高まり、免疫力の強化につながるというわけです。
深呼吸に笑う動作を加えて横隔膜を動かす
横隔膜を動かして免疫力を高める笑いとして、日本笑いヨガ協会代表の高田佳子(たかだ よしこ)さんは、
「笑(わら)トレ」を提案しています*²。
「笑トレ」とは、深呼吸に「ハッハッハッ」と声を出して笑う動作を加えるトレーニングとのこと――。
深呼吸をする要領で、まずは鼻からゆっくり、深く息を吸い込みます。
次に、思いっきり吸い込んだら、そこでいったん息を止め、その息をゆっくり口から吐くときに「ハッハッハッ」と声を出して笑いながら、数回に分けて吐き出すようにします。
実際やって見ると、「ハッハッハッ」と笑いながら息を吐いていくときに、横隔膜が動くような感覚を実感することができます。
このとき、特に大きな声を出す必要はありません。重要なのは、横隔膜を動かすことですから、うまくできないときは、まず深呼吸を数回やってみて、要領をつかんだところで「ハッハッハッ」と笑いを加えて見ると、うまくいくのではないでしょうか。是非試してみてください。
参考資料*¹:大阪国際がんセンター病院サイト
参考資料*²:日本笑いヨガ協会