体をよく動かしているとうつ病になりにくいって本当?

スポーツ運動と健康
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身体活動を行う習慣とうつ病の発症に関係が?

コロナ禍による外出自粛の生活が始まってすでに2年になります。

これだけ長引くと、誰もが気が滅入ってしまい、うつうつとした気分になってくるものです。

実際、感染を極度に恐れたり、今後の生活への不安に耐えかねてのことでしょうか。極端なケースではありますが、自ら命を絶つ方が増えているというのはなんとも残念な事態です。

折しも、2月19日、国立精神・神経医療研究センターなど国内6つの高度医療研究センター*が共同で、
国内初の「健康寿命を延ばすための提言」をまとめ、公表しています*¹。

「健康寿命を延ばす」とは、「健康で長生きする」ということです。

本提言は、そのために役立つといわれている予防行動や習慣のうち、すでにエビデンス(科学的根拠)が確認されたものを取り上げ、これを積極的に日々の生活に取り入れていく必要があると提言しているのです。

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健康寿命を延ばすための予防行動の一つ「身体活動」

提言では、健康状態を左右する予防行動や習慣として「喫煙」「飲酒」「食事」など10項目をあげています。
そのうちの一つに「身体活動」という項目があります。

そこに書かれている具体的な提言を読んでいくなかで、「日頃から活発な身体活動を行っている人はうつ病を発症するリスクが低下します」とのフレーズが目に留まりました。

日頃からパソコンの前に坐っている時間が長く、運動不足気味の私には見過ごせない話です。

コロナ禍によるテレワークなどで、「私も……」と、運動不足を気にしている方も少なくないと思い、詳しく調べてみましたので、要点をまとめておきたいと思います。

*高度専門医療研究センター6機関は、国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センターをいう。通称、「ナショナルセンター」としても知られる。

日々の身体活動量が多いほどうつ病の発症リスクが低くなる

今回の提言で「身体活動」については、「日頃から活発な身体活動を心がける」ことを推奨しています。

そのうえで、国民一人ひとりの目標として、次の点をあげています。

  • 現状より1日10分でも多く体を動かすことから始める
  • 歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分行うことを目安とする
  • 毎日の身体活動に、息がはずみ汗をかく程度の運動を1週間に60分程度含まれるようにする
  • 高齢者は運動の強度を問わず、身体活動を毎日40分行う

現状より1日10分(1000歩)でも多く体を動かす

まず「現状より1日10分でも多く体を動かす」ことが「健康で長生き」につながるエビデンスとして、「身体活動と非感染性疾患、うつ、認知症、運動器の機能低下のリスクとの間には負の量反応関係が見られる」ことをあげています。

「負の量反応関係が見られる」ということですから、日々の身体活動量が多いほど、がんや糖尿病、循環器疾患等の非感染性疾患やうつ病、認知症の発症リスク、および運動器の機能低下リスクが低くなるということです。

実際、身体活動が1日当たり2~3分多くなる度に、うつ病等、上記疾患の発症リスクや運動器の機能低下リスクが、それぞれ0.8%ずつ有意に低下することが確認されているそうです。

また、1日の身体活動量をどの程度増やすことができるか尋ねた調査で、6割を超える人(60.8%)が、1日に1000歩、時間にして10分程度なら活動を増やすことができると回答していることも報告されています。

確かに、1日10分程度なら、私自身、パソコンから離れて家事をしたり、室内を歩き回るなどして体を動かすことはできそうですが、あなたはいかがでしょうか。

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妊娠中の身体活動は産後うつの発症リスクを減らす

日々の身体活動とうつ病の関係についてみて見ると、「日頃から活発な身体活動を行っている人はうつ病を発症するリスクが低下します」と記してあります。

加えて、この因果関係は、大人でも子どもでも、また妊娠中の女性でも見られ、「妊娠中に身体活動を増やすことにより、産後うつのリスクが低下する」ことも報告されているそうです。

また、妊娠中に身体活動を行うと、妊娠中の体重増加を抑制できる等の効果から、「妊娠合併症および早産のリスクが低下し、自然分娩ができる可能性が高くなる」ことも確認されたとする海外の報告が紹介されています。

同様に、日本人を対象に行われた大規模コホート研究*でも、運動を定期的に行っている妊婦では、早産および吸引分娩や鉗子(かんし)分娩のような器械分娩のリスクが低くなることが確認されているそうです。

*コホート研究とは、疫学研究の手法の1つ。
「ある共通点を持つグループ」と「その共通点を持たないグループ」を設定し、それぞれのグループにおける病気の発生率や死亡率を比較、研究することをいう。

体を動かす目安は歩行や犬の散歩程度の運動を毎日60分

では、活動的な生活を実行するには、日頃からどのようなことに取り組めばいいのでしょうか。

この答えとして提言は、厚生労働省が2013年にまとめ、発表している「健康づくりのための身体活動基準」*²にある、18~64歳における身体活動量の基準として、以下を推奨しているわけです。

  • 歩行またはそれと同等以上の、強度が3メッツ以上の身体活動を毎日60分行う
  • 毎日60分の身体活動のなかに、息がはずみ汗をかく程度の運動が1週間に60分程度含まれるようにする

厚生労働省の基準では、身体活動を「安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費するすべての動作を指す」とし、いわゆるスポーツとしての「運動」だけでなく、日常生活における労働、家事、通勤、通学等の「生活活動」を含むものとして説明しています。

普通歩行や犬の散歩の身体活動強度はは3.0メッツ

そのうえで、強度が3メッツ以上の身体活動として、「普通歩行(3.0メッツ)」「犬の散歩(3.0メッツ)」「掃除(3.3メッツ)」「自転車走行(3.5~6.8メッツ)」「速歩き(4.3~5.0メッツ)」「子どもと活発に遊ぶ(5.8メッツ)」「農作業(7.8メッツ)」「階段を駆け上る(8.8メッツ)」を例示しています。

また、強度が3メッツ以上で息がはずみ汗をかく程度の運動としては、「ボウリング、社交ダンス(3.0メッツ)」「ゴルフ(3.5~4.3メッツ)」「ラジオ体操第一(4.0メッツ)」「卓球(4.0メッツ)」「ウォーキング(4.3メッツ)」「野球(5.0メッツ)」「バドミントン(5.5メッツ)」等があげられています。

参考資料*¹:「疾患横断的エビデンスに基づく健康寿命延伸のための提言(第一次)」

参考資料*²:厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」